雲居 残月 の 小説道場

主に「小説家になろう」で書いた話を中心に、小説投稿をおこなっていきます。

第31話「波刈神社 その5」-『竜と、部活と、霊の騎士』第5章 決闘

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朱鷺村神流◇

 十二畳の畳部屋に布団を並べて敷き、私とユキちゃんは眠っていた。枕元に置いた携帯電話が鳴り、私は手に取り確認した。佐々波珊瑚。佐々波先生だ。ドジでぼうっとしているが、常識はある人だ。この時間にかけてきたということは、よほどの緊急の用件だろう。

「はい、朱鷺村です」

 私は、上半身を起こして声を出す。そして、佐々波先生の話を聞いた。波刈神社で、白墨が消されたらしい。末代の文字縛りで封印した場所の、白墨だそうだ。
 侵入者があったということだ。昨日の一件もある。人が踏み消した可能性もある。霊珠を持っている者なら、霊と同じように、白墨の線を消すことができる。すぐに現地に向かうことを告げて、通話を終えた。

「どうしたの、カンナちゃん」

 布団の中で首だけ動かして、ユキちゃんが尋ねてくる。

「波刈神社に行く。ユキちゃんも付いてきて」

 立ち上がり、電気を点け、パジャマを脱いで服に着替える。

「何があったの?」

 同じように服を身に着けながら、ユキちゃんが尋ねてくる。

「末代の結界の中に、何者かが侵入したらしい」
「穏やかじゃないわね」

 上着を羽織り、ふすまを開けると、廊下に黒服が控えていた。

「どうした?」
「お嬢様が、目を覚まされたようですので、お耳に入れておきたいことが」
「何だ?」
「電話番が、部活の後輩と名乗る人物から、緊急ということで電話を受けたそうです。お嬢様が起きたら、伝えておいて欲しいと言われました」

 全身に緊張が走る。タイミングが合い過ぎている。

「そいつを連れてきて、話の内容を、すぐにここで話させろ。至急だ!」

 私の剣幕に驚き、黒服が廊下を駆け、若い電話番を連れてきた。電話番は、私の表情を見て、しどろもどろになりながら説明する。電話はDBからだ。新入部員の一人が、波刈神社で襲撃を受けたという内容だった。

「なぜ、さっさと伝えない!」

 私は怒りに任せて怒声を吐く。電話番は、泣きそうな顔で頭を下げた。

「声を荒げてはいけませんよ」

 気付くと廊下の先に、母が立っていた。

「お母さま。なぜ、この時間に?」

 母は、真剣な面持ちで理由を話した。

「夫の許に、大道寺の当主より、先ほど電話がありました。『波刈神社で、針丸姉妹という者たちが、森木貴士という高校生を襲撃している。お宅のお嬢さんに、そう伝えれば分かると言われたので、そのまま伝言します』そう言ったそうです。状況は分かりますか?」

 私は硬い顔で頷く。すべてが繋がった。

「あの、お嬢様。大道寺万丈と言う方の電話番号も、メモしています」

 電話番の手から紙を奪い、ポケットに入れる。現場は波刈神社だ。今悠長に電話をかけるよりも、現地になるべく短い時間でたどり着き、そこで連絡を取った方がよい。

「ユキちゃん。私の刀と、ユキちゃんの銃を」

 ユキちゃんは、部屋にすぐさま戻る。相手は生きた人間だ。霊の武器だけでは心許ない。物理的な武器を、携えるべきだろう。

「お母さま。今夜、死人が出るかもしれません。その際は、朱鷺村の者を使い、死体処理を頼むことになるでしょう」
「分かりました。手配しておきます」

 こんな会話が、すんなりと成立するこの家のことを、私は苦々しく思う。ユキちゃんは私の家のことを、ヤクザみたいだと言ったが、その通りだと思う。
 ユキちゃんが戻ってきた。私は刀を受け取り、背中に結び付ける。その刀は、五年前の事件の時に、持ち出したものだ。ユキちゃんは、ホルスターを付けて、拳銃を収める。武器は持った。あとは、出撃するだけだ。

「行ってきます、お母さま」
「自分の仕事をまっとうしなさい」

 頷き、廊下を駆け出した。ガレージに行き、ヘルメットを被り、バイクにまたがる。後部座席にユキちゃんが乗り込み、私はバイクを発進させた。
 制限時速を大幅に破り、夜の道を疾走する。もし、警察に捕まった場合は、朱鷺村の権力で、握り潰すことができる。谷を抜け、平地に出て、海へと向かう。海岸線の道に出て、波刈山を仰ぎ、その麓へと到達する。
 石造の大鳥居の下を通過した。その直後、前方に人影が見えて、慌ててブレーキを握った。飛ばし過ぎたか。停止までの距離を稼げず、人影が眼前まで迫って来る。

 戦国時代の兵士?

 これまで何体も狩ってきた死霊の類か。いや、何かが違う。ハンドルを切り、避けようとする。その行く手にも、他の兵士が歩いている。バイクは雑兵に激突する。私とユキちゃんの体は、投げ出される。
 互いに受け身を取り、立ち上がる。停止直前だったおかげで、ダメージはそれほどない。バイクを見る。横倒しになり、壊れている。道路には、今轢き殺した死体が転がっていた。

 物理的な存在?

 この地で、何かが起きている。気付くと周囲には、武器を持った戦国時代の人間が、集まっていた。驚くべきことに彼らは全員、半透明ではなく、地面に影を落としていた。

「偽剣の力か?」

 誰かがそれを抜き、その力を解放している。私は背中の剣を抜き、ユキちゃんは拳銃を手に取る。

「こいつらを蹴散らして、波刈神社に向かう」
「分かったわ、カンナちゃん」

 それぞれの武器を、霊珠の力で授かった能力で包む。敵だけでなく、こちらの霊能力も物質化している。二人の武器は強化されて、通常ではありえないほどの、破壊力に変貌する。
 目の前に、一人の兵士が立ちふさがった。

「邪魔するな!」

 私が振った刀は、兵士の体を真っ二つにする。私は刀を構え直す。私とユキちゃんは、アスファルトの道を駆け、波刈神社を目指した。