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雲居 残月 の 小説道場

主に「小説家になろう」で書いた話を中心に、小説投稿をおこなっていきます。

第58話「鏡姫の暗躍 その2」-『竜と、部活と、霊の騎士』第9章 暗躍

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◇鏡姫◇

 海峡と本土、そして御崎町を見下ろせるマンションで、私は音声を聞いている。火炎坊が仕掛けた盗聴器。その音声を収集しているワゴン車のパソコンから、サーバーにデータを転送して、こちらで確認している。わずかなタイムラグはあるが、困るほどではない。
 敵が車で動き出したあとは、車に仕掛けられたGPSの情報が役立った。それだけではない。火炎坊のスマートフォンの位置情報も得ることができる。そこで拾った音声も、こちらのスピーカーで再生させた。

 私は、この短い時間で得た情報を、頭の中で思い出す。龍之宮玲子の家の会話で、敵の封印の仕掛けの、全貌を知った。その後、敵と火炎坊との交戦も把握した。その決戦の場所が、ここからほど近い廃工場であることも探知した。
 あとは、敵に近付き、誰か一人を無力化して奪えばよい。そいつが持つ、「許」と書いた呪符を入手する。それも、持ち主から引きはがさずに、本人ごと強奪すれば、呪符は消えることなく利用できる。

 私は、マンションの部屋を出て、地下の駐車場に向かった。私の年齢は十七歳だから、免許は取れない。だからといって、運転してはいけないという道理はない。他人が決めたルールなど、守る必要はないのだから。
 私は地下の車に乗り、マンションの外に出る。タブレットの地図を見ながら、火炎坊が逃げ込んだ先に向かう。少し離れた場所で車を停めて、工場の様子を観察する。入り口に、車が一台停まっている。その車の外に、女が一人いる。名前は分からないが、あいつを昏倒させて連れ去ればよいだろう。

 私は車のダッシュボードを開く。そこには、催涙スプレーやスタンガンといった護身グッズや、拳銃が詰め込んである。拳銃は今日は使わない。持ち主を殺してしまったら、「許」の呪符が消える。龍之宮玲子は、そう話していた。

「よし、行くか」

 私は車を発進させて、廃工場の入り口で停車する。その瞬間から、戦いは始まっている。私は、鏡姫という自分の名前を告げ、敵に、効果的に幻を見せられるように布石を打つ。簡単な会話をおこない、外にいた快活そうな女を自分に近付かせる。そして、催涙スプレーとスタンガンのコンボで昏倒させた。
 そうやって倒したショートカットの女を、車の後部座席に運ぶ途中、車中の女が能力を発動させる気配を感じた。私は鏡像の能力を発動させて、敵の精神を欺く。そのまま車を走らせて、廃工場から離脱した。

 海岸線の大通りを抜けて、北へと向かう。そこには、針丸姉妹が偽剣の所在を明らかにした波刈神社がある。その場所に行き、朱文字の封印を突破して、偽剣を手に入れる予定だ。そうすれば、私は一本目の偽剣を手に入れることができる。
 それだけではない。他の偽剣の所在地も、私は把握している。これまでは、場所は知っていても、そこにたどり着くことができなかった。しかし、これ以降は違う。その問題も、呪符と持ち主がいれば解決する。その場に残っている黒文字の罠は、この女の体を弾除けにして進めば、何とかなるだろう。

 車を進ませていると、警察の車とすれ違った。消防車も通っている。廃工場の炎が、近隣の住民の目に触れたのだろう。何台か通り過ぎたあと、一台のパトカーがユーターンして、私に対して停車するようにと、スピーカーで言ってきた。

「ちっ」

 盗難車であることがばれたのか。無駄に記憶力のよい警官もいるものだ。振り切ると、もっと多くのパトカーに追われることになる。それは面倒だ。ここでどうにかするしかないだろう。
 私は車を路肩に停める。パトカーも停車した。私は車を降りて、パトカーに向かう。扉が開き、制服の警官が出てきた。数は二人。腕力ではそもそも敵わない。私は運動不足の小柄な少女なのだから。

「何ですか?」

 私は感情を押し殺した声で尋ねる。警察は、盗難車であることを聞いてくる。私は警察官の腰を見る。拳銃がある。それを鏡像の能力でコピーする。そして、二人の警官に対して一発ずつ銃弾を打ち込んだ。
 銃撃されたと思った警官は、その場にくずおれて気絶する。私の能力は強い。一般人にも見せることができる。ただし、距離が離れた相手には通じない。だから遠方からは、発砲音は聞こえないし、私の手にある銃も見えない。もし目撃者がいても、急に二人が倒れたと思うだけだ。
 私は警官の襟首をつかみ、道路に投げ出して転がす。そして自分の車に乗り込み、その場を離れた。バックミラーで後ろを確認すると、後続の車が二度跳ねて、急ブレーキを踏んだ。轢き殺されたか。面倒事を引き起こした罰だ。私はスピードを上げて、海岸線を走っていく。

 前方に石の大鳥居が見えた。波刈山だ。鳥居の下をくぐり、波刈神社に向かう。坂道を上り、神社の前で車を停めた。足下は砂利だ。そのまま女を引きずっていくと、ぼろぼろになりそうだ。私は、トランクからビニールシートを出す。そして、女を包み、引きずって神社の境内を進んでいく。
 境内は誰もいない。奥へと進み、拝殿の戸を開けて中に入る。奥への戸が二つある。情報によると、ここに、普通の人には見えない、隠された戸があるはずだ。

 私はビニールシートを解き、女の服を漁る。呪符はどこにあるんだ。スマートフォンが出てきた。これはいらない。拝殿の外に投げ捨てる。
 財布が見つかった。中を見てみる。霊珠がある。その横に呪符もあった。私は、入手した霊珠をポケットにしまい、呪符を握って壁を見る。真ん中近くに小さな戸があった。これだ。この奥に、偽剣がある。場所が分かると、私の感覚に変化が生じた。それまで感じていなかった強い霊力が、感じられるようになった。

 女を引きずり、真ん中の戸を開く。戸には「陰」の朱文字があった。背後から差し込んでくる昼の光が、岩にうがたれた穴の中を浮き上がらせる。黒い文字による、禍々しい呪詛の言葉がいくつか見える。最奥には戸があり、そこには「殺」の一字が配されている。

「ふうっ」

 私は深呼吸をする。ここからは、失敗は許されない。方法は二つ。壁の文字を避けながら、穴の奥まで行く。もう一つは、女を穴に押し込んで、黒文字を発動させながら、地雷を撤去するようにして進んでいくだ。
 穴の狭さと、私の体力を考える。引きずることで、かなりの体力を消耗している。その上、この狭い穴を、押していくとなると、へばってしまう可能性がある。それに、奥の戸まで達したあと、この女の体が邪魔になってしまうのも困る。

 私だけが穴の中にはいる。その選択肢が望ましいだろう。問題は、「許」の呪符は、女からどれぐらい離したら無効化してしまうかだ。私は考える。呪符の持ち主は、それを身に着けて入浴しないはずだ。呪符は紙でできている。濡らせば破れる可能性がある。
 母親から呪符を受け継いだ森木貴士は、お守り袋の中に、呪符が入っていたことを知らなかった。そういった人間が、普通の生活を送っても、無効化しなかったということは、同じ屋根の下程度の距離ならば、持ち主から離しても効果は失われないはずだ。
 それに、本来の持ち主ではない私でも、呪符を持つことで、この場所の「陰」の幻は突破できた。だから、所有権の譲渡が伴わなくても、効果を発揮することは分かっている。理論的には、「殺」の文字も抜けられるはずだ。そして、その奥に到達できると思われる。

 あとは勇気だけか。

 私は服を脱いで、下着だけになる。ひらひらとしたゴスロリの服では、狭い横穴の中で、動きが制限される。精神を集中する。呪符を握り締めて、横穴に入る。壁に浮かんでいる攻撃の文字を避けながら進んでいく。普段、柔軟運動も何もしていないことが悔やまれる。そういったことをしていれば、もう少し楽に体を動かすことができるだろう。
 戸の前まで来た。ここが一番の難関だ。これは賭けだ。この賭けに勝てば、私は敵を出し抜くことができる。呼吸を整え、戸に手をかける。罠は発動しない。一気に開けて中に足を踏み入れた。

 横穴の先は、しめ縄が張り巡らされた、少し広い部屋になっている。その中央に、青白い円柱が鎮座している。私は手を伸ばしてそれを握る。腕を通して、大量の霊力が流れ込んでくるのが分かる。私はその力の奔流に歓喜して、声を出して笑った。なるほど、これが偽剣か。
 この調子で、一振りずつ集めていき、弥生様にすべて献上すれば、霊剣への道が開かれる。さらに強大な力が獲得でき、弥生様は目的を達成することができる。孤立した個人が、その孤立を維持したまま、幸福になれる楽園が、訪れるようになる。私は、その日が近いことを感じて、一人歓喜した。

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