雲居 残月 の 小説道場

主に「小説家になろう」で書いた話を中心に、小説投稿をおこなっていきます。

第51話「炎の死闘 その1」-『竜と、部活と、霊の騎士』第8章 炎上

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◇森木貴士◇

 八布里島の裏手にある多津之浦。その干拓地を取り囲むようにして連なる丘の一つに、俺たちは上った。丘の頂付近には、神社が見える。その鳥居の手前の広々とした空き地に、いくつかの大きくて平たい岩があり、地面を覆っていた。岩は、数人が一緒に座って食事を取るのによさそうな台状になっている。その一つを末代は選んで、俺たちは輪になって腰かけた。
 尻の下の岩は、春の日差しを浴びて、ほんのりと温もりを持っている。丘の下からは、潮の香りを含んだ風が吹いてきている。心地よかった。俺は、目の前に広がる、美しい景色を眺める。干拓地、岬、その間の岩礁を経て、青い海へと続いている。

「あの岩礁に、赤い屋根の小さな建物が見えるでしょう」

 末代が、手を差し出して述べる。俺は、その指の先を追う。そこには、岩礁に張り付くようにして建つ、小さな社殿があった。

「あれが竜神神社です。小さいでしょう。あの場所に、偽剣が安置されていたのです」

 その偽剣は、今は失われている。この島に敵対する竜神教団の教祖、凪野弥生が持ち去ってしまったからである。

「そして、この丘の上にあるのが陰神社。二つは対になっており、そっくりの作りになっているの。ただし、陰神社の方が大きいわ。竜神神社は、人が中に入ることは前提になっていない。対して陰神社は、竜神神社の代わりに、人が集まり、話し合ったり、儀式をしたりといったことが、おこなわれる場所ですから。儀式の道具や、所蔵品なども、すべて陰神社や、陰蔵に収められています。食事のあとに案内しますね」

 末代は、簡単な説明を終えたあと、アキラが運んできた重箱を広げた。お握りや煮物とともに、若い人間が好きそうな唐揚げやフライなどの油ものも入っている。末代は、紙のトレイとコップ、割り箸を配り、麦茶の入った水筒を回す。

「いただきます」

 俺たちは手を合わせて、春の行楽気分で食事を始めた。
 DBが、がっつくようにして食べ物を押し込んでいる。その様子を見ながら、アキラが呆れたような顔をしている。朱鷺村先輩は、姿勢を正して、真面目な顔で箸を運んでいる。雪子先輩は、にこにこしながら、みんなの様子を眺めている。佐々波先生一人だけ表情が暗かった。きっと、ぶつけた車のことを考えているのだろう。時折ため息を吐きながら、お握りをむしゃむしゃと食べていた。

 昼食が終わった。心地よい日差しを浴びながら、俺たちは麦茶を飲む。傍らには、DBとアキラ、左斜め前には、末代と佐々波先生がいて、その右には、朱鷺村先輩と雪子先輩がいる。しばらくぼうっとしていると、アキラが、何かに気付いたように、顔を動かした。

「何か、焼けている臭いがしない?」
「はあ? 何を言っているんだ」

 DBが、面倒臭そうに周囲の臭いを嗅ぐ。俺も顔を上げて、鼻に意識を集中する。雪子先輩が立ち上がり、目を細めた。

「火事みたい」
「そうですよね。何か焼けてますよね」

 アキラが腰を上げて、雪子先輩の横に並ぶ。雪子先輩は、左右を見渡して、険しい顔になる。

「この丘を囲むようにして、草木が燃えているわ。自然現象ではないようね。誰かが、この場所を焼き払おうとしているわ」

 俺は驚き、みんなとともに岩の上に立った。丘の麓に、ちらほらと火が見える。よく見ると、森の木に隠れて、いくつかの場所で煙が上がっている。丘を囲んでいるという、雪子先輩の台詞は、事実のようだ。

「どうします?」

 俺は、この場で最年長の末代に尋ねる。末代の表情は硬い。決意を固めるような顔をしたあと、声をこぼした。

「このままでは、陰神社も陰蔵も燃えてしまいます。それに、封印の場所に施したしめ縄も、焼け落ちてしまいます。そうなれば神域が乱されて、封印は力を弱めてしまいます」

 末代の台詞を聞き、朱鷺村先輩が鋭い顔をして声を出す。

「持ち出して、別の場所に移すべきでしょうか?」

 一瞬、迷うような表情をしたあと、末代は「そうね」と答えた。

「ちょっと待ってくださいよ!」

 DBが、会話に割って入る。

「末代、部長。いくら何でも、タイミングがよすぎませんか? 俺たちが陰神社に行こうとして、丘に来たら、周囲に火が付いたなんて、普通に考えておかしいでしょう」

 DBの台詞はもっともだ。敵が、俺たちを罠にはめるためと、考えるべきではないのか。もしそうならば、偽剣や霊珠を持ち出して動かすことは、敵の策略にはまることになる。
 末代と朱鷺村部長は、悩む顔をする。DBの質問の意図が分かったのだろう。これが、敵が仕掛けたことならば、敵の望む行動をすれば、相手を利することになる。わずかに険しい顔をしたあと、末代は顔を上げて、決意を込めた声を出した。

「手分けをして、偽剣と霊珠を回収して、龍之宮の屋敷で合流しましょう。放置して逃げ出せば、偽剣と霊珠が、敵の目にさらされる危険があります。
 敵は、二つの品を移動する私たちを襲う気でしょう。危険は伴いますが、背に腹は代えられません。敵の数が何人かは分かりませんが、ここには七人の守り人がいます。冷静に対処すれば、襲撃を受けたとしても、退けることができるでしょう」

 敵の策に、そのまま乗るようで悔しいが、仕方がない。置いて逃げるぐらいならば、回収した方がましなのだろう。

「DBどう思う?」
「もっとよい方法がありそうだが、俺には判断できる材料がない。それに、やるならすぐ動くべきだ。火に囲まれる前に、迅速に行動する必要がある。今は、悩むよりも動く方が先だ。俺たち自身も煙に巻き込まれて倒れたり、炎に焼かれて死んだりする可能性があるんだからな」

 俺は頷き、末代に尋ねる。

「二つの場所を順番に訪ねるのですか?」
「それでは、火に追い付かれる可能性があります。二手に分かれます。霊剣の場所は、私が率いていきます。霊珠の場所は、佐々波先生に引率してもらいます」

 末代の言葉に、佐々波先生が真剣な顔をして、承諾の返事をする。佐々波先生は、末代から鍵の束を受け取る。そして、末代の話の続きを引き取った。

「戦力を同等にするために、一年生と二年生を、それぞれ半分ずつに分けるわ。朱鷺村さんは、末代に同行。アイゼンハワーさんは、私に付いてきて。森木君は末代の方で、大道寺君と鏑木さんは私の方。敵が狙うとしたら、偽剣の方だと思うから、そちらの戦力を少し多めにしているわ。これで行動を開始するわよ」

 いつもはぼうっとしているが、さすが先生だけある。有事にはきびきびと行動して、てきぱきと指示を出す。俺たちは、重箱や食器をその場に残したまま、素早く動き出した。

「DB、アキラ。気を付けろよ」
「そっちこそな」

 DBが返事をしたあと、アキラが厳しい顔を、俺に向けてきた。

「シキ。もしかしたら、私たち見張られていたのかもしれない」

 アキラの声に、俺は同意の表情を返す。森の中に誰かいて、俺たちのことを観察していた。そう考えれば、すべて辻褄が合う。理由は分からないが、敵は、俺たちが屋敷に集まり、丘に向かうことを知っていた。だから、俺たちが出発する直前に、丘を離れて別の地点に移動した。その考えは、それほど的外れではないだろう。

「合流は、末代の屋敷で」

 その台詞を合い言葉にして、俺たちは二手に分かれて、それぞれの目的地に向かった。

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