雲居 残月 の 小説道場

主に「小説家になろう」で書いた話を中心に、小説投稿をおこなっていきます。

第49話「末代訪問 その6」-『竜と、部活と、霊の騎士』第7章 訪問

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◇森木貴士◇

 島裏の多津之浦にある、龍之宮家の屋敷。そこで、俺たち竜神部の新入部員たちは、この島の歴史を末代から聞いている。古代から始まった歴史は、平安、鎌倉の時代を過ぎ、南北朝の時代を終えた。そして話は、戦国時代へと突入する。

室町幕府が衰え、乱世が収束に向かうまでの間。いわゆる戦国時代と呼ばれる時期は、多くの戦国大名が割拠して、相争っていました。
 その時期に、戦いに敗れて、国を追われた人々の一団が、船に乗り、八布里島を目指してきました。彼らは、七人の戦国武将と、その部下の雑兵たちで構成されていました。

 その落ち武者たちは、竜神海峡の霊剣の伝説を、どこかで聞きおよんだらしく、その話を頼りに、霊剣を得ようとして、島に上陸しました。霊剣を携えて、天皇の血統の者を担げば、それはこの国を支配する正統な集団だと主張できる。彼らは、そう考えたわけです。
 戦いにも、筋目が大切です。人々は大義名分を掲げることで、自分たちの戦意を高揚させます。七人の指揮官たちは、その象徴を得ようとして、島に対して圧倒的な兵力で、乗り込んできたのです。

 八布里島の住人の多くが、武器を取り、立ち上がりました。戦国時代の当時、兵士と農民、漁民などの区別はありませんでした。誰もが刀槍を所持して、戦っていました。しかし、そうした人々の抵抗も虚しいものでした。この島の武力は、襲撃者に比べて、著しく劣っていたからです。八布里島の人々は、小競り合いのたびに潰走を続けました。
 そうやって劣勢が続く中、捕らえられ、拷問を受けた人の中には、八布里島の伝承や、竜神神社の話、八本の偽剣の存在について漏らす者も、少なくありませんでした。中には、敵方に寝返り、積極的に偽剣の場所に案内しようとする者も、出る始末でした。そういった苦境の中、島を守るために団結したのが、朱鷺村を中心とした、島の豪族たちでした。

 島の北半分を支配していた朱鷺村。西部の小さな土地に、根を下ろしていた森木。そして、南部の漁民の蘭堂。その三つの家が中心となり、落ち武者を罠にかけることになりました。
 すでに、偽剣の場所は、七人の武将たちに漏れていました。そして、竜神神社にあった一本は、すでに敵の手に落ちていました。残りの七本は、龍之宮一族による隠蔽はおこなわれていましたが、それも土地を焼き払い、地を掘り起こすような探索をされれば、露見する可能性があります。
 敵は数が多く、精強です。兵の数は、島の守り人が圧倒的に少ないです。そこで、敵を分断して、七人の武将を一人一殺する作戦が立てられました。

 分断のために、龍之宮家の娘が、わざと敵の手に落ちました。そして拷問を受け、嘘の情報を白状しました。霊的なものを得るには、一定の手順を踏んだ儀式が必要だという、偽りの知識です。彼女は自らを犠牲にして、敵に、誤情報という毒を盛ったのです。
 彼女が伝えた内容は、偽剣にまつわるしきたりと、残りの七本の偽剣の手に入れ方です。それは、以下のようなものでした。一つ。偽剣を抜いた者が、偽剣の所有者になる。二つ。七本の偽剣には、七人の所有者が必要になる。三つ。七本の偽剣は、同時に抜かなければならない。

 敵が奪った竜神神社の一本は、本柱であり、残りの七本は支柱である。この本柱を発動させて、霊剣の許に導かせるには、七本の偽剣の封印を、同時に解かなければならない。ただし、同時にといっても、わずかな誤差は許される。正午の瞬間を狙えば、それは成し遂げられる。
 拷問の末、その全容を語ったことにより、七人の武将は、それが真実だと信じました。誤情報に踊らされた彼らは、それぞれ分かれて、島の封印に向かうことを決めました。こうして、まずは敵の分断に成功したのです。

 次に必要だったのは、敵を倒す方法です。戦力は圧倒的に劣っています。一人一殺といっても、近付いて刺し違えるだけの、武力は必要になります。霊珠による幻は、相手に感受性がなければ、効果はありません。偽剣による物体化をおこなえば有効ですが、敵に奪われてはならないものを、封印の中から持ち出すことは、本末転倒と言わざるを得ません。

 そこで考え出された作戦は、偽剣の偽剣を作るということでした。力の強い霊珠で、霊剣の模造品を作ったように、偽剣の模造品である偽々剣を、残っている霊珠で作るのです。当然、偽剣よりも能力は劣りますし、偽剣から離れると、力はほとんどなくなります。物体化する時間も短く、その強度も低いです。
 それだけではなく、偽々剣を作った者は、偽剣を作った者と同様に、寿命を削られて、短い時間で死に至ります。

 一人一殺を担うことになった守り人たちは、それぞれ偽々剣を作り、偽剣の隠し場所の近くで、敵を待ち受けました。そして必死の状態で、敵と戦いました。結果的に、七人すべてが敵と刺し違え、七本の偽剣を守りました。また、敵が撤退を始めたことにより、奪われた竜神神社の偽剣も、取り戻すことができました。

 島の住人は、敵を見事撃退しました。しかし、その作戦には、思わぬ副作用がありました。七人の武将と刺し違えた時に、偽々剣が敵の体内で砕けたのです。そのため、武将と偽剣が、霊的に結ばれてしまったのです。
 この絆を断ち切るには、偽剣が必要になる。しかし、その偽剣を封印から持ち出すことは、危険を伴う。そのため当時の人々は、武将と偽剣の絆を、断ち切ることを避けました。そして、怨霊となった武将が鎮まるのを待つことにしたのです。
 こうして、戦国時代の戦いは終わりを迎えました。八布里島にとって、最も大きな災厄が、訪れた時期でした」

 そこまで語ったあと、末代は疲れたようにして、間を置いた。しばらく沈黙を続けたあと、再び表情を引き締めて、話を再開した。

「そして、現代です。ここからは、悔恨の歴史です。私が生まれてから、今に至るまでの話になります。
 私の父は、竜神神社の宮司の家系でした。母は通い巫女を過去にしており、その縁で、父に嫁いだ女でした。通い巫女の風習は、龍之宮の血を絶やさないために、有力な家の若い娘を、龍之宮に供給する仕組みでもありました。

 そういった、血を繋ぐ仕掛けがあったのにも関わらず、家系は徐々にやせ細っていきました。そして、私の両親の代になり、子が一人しかいないという状況が、発生してしまったのです。
 現代では、昔の時代とは違い、妾を持つことが難しいです。そのため、一夫一妻の関係を両親は選択して、その結果こういった状況に至ったわけです。

 たった一人の跡取り娘。そのために私は、竜神神社の宮司となるための教育を受けて育ちました。十八の歳を迎え、神社を継いだ時、父は私に、「すまない」と言って謝りました。そして、お前が子を儲けなければ、龍之宮本家は途絶えてしまうと告げました。
 私は二十歳になり、結婚しました。相手は、小辰定治という龍之宮分家の男性で、小学校の教師をしていました。夫は入り婿となり、龍之宮定治と名乗るようになりました。しかし、二人の間に子供はできませんでした。そして、私が四十二歳の時に、夫はなくなりました。

 その後私は、自身が死んだあとのことを考えて、偽剣の封印を強化する日々を送りました。自身の霊体を削り、封印を施し、気力の回復を待ち、次の偽剣の許に行く。また、これまでの龍之宮と同様に、通い巫女を家に招き、霊術を授け、守護の力を養っていくことも続けました。
 そうして十数年を過ごしました。そして、私は自分が老い、死期が近付いていることを、肌身に感じるようになったのです。

 死を意識するようになった私は、このままでよいのだろうかと、疑問を持つようになりました。夫が教師だったこともあり、私は、学校に仕事を継いでもらうことを思い付きました。それも、なるべく通い巫女と同じ年齢がよいと考えました。
 近い歳となると、高校生になります。そういった子供たちを擁する高校が、最適な場所だと、私は判断しました。そして、通い巫女を出していた朱鷺村の家を頼り、高校の校長に話を付けてもらいました。またそれを機に、私は引退して、通い巫女の風習を途絶えさせる決心をしました」

 それ以降の話は、佐々波先生が部室で語ってくれた内容と同じだった。俺は古代から今に続く、竜神神社の全貌を、ようやく把握した。末代の話がすべて終わったあと、俺は母さんと姉さんのことについて尋ねようと思い、口を開いた。
 畳敷きの部屋には、静謐な空気が満ちている。その場にいる、すべての人間が姿勢を正している。その中で末代は、ゆっくりと頷き、柔らかな笑みを浮かべた。

「そうですね。そのことについて、話さなければなりませんね。あなたの大切な、家族のことについてですものね。そのことについて、佐々波先生は、何か語ってくれましたか?」
「いえ、末代に話を伺うまでは、待つべきだと思いましたので」
「そうですか。あの日、現存していた、霊珠を授けられた通い巫女は、すべて殺人鬼の迎撃に向かいました。
 殺人鬼たちは、霊珠を持つだけでなく、人を殺傷できる武器を持っていました。そのため通い巫女たちは、奥の手を使い、殺人鬼たちと刺し違えたのです。戦国時代の、七人の武者たちの時と、同じ方法です」
「偽々剣ですか?」

 末代は首肯する。
 偽剣の安置場所へと臨み、敵と相対して、自らが持つ霊珠を使い、偽々剣を作ったのだ。そして必死の状態になり、敵と刺し違えた。
 母さんが、死んだ理由が分かった。しかし、姉さんが姿を消した理由が、分からなかった。姉さんは、死体が見つかっていない。だから、生きていると、俺も父さんも考えている。しかし、何の連絡もない。そのことが、姉さんの死を暗示していることも、承知している。

 死んだから、連絡が付かないのか、あるいは、生きているけれど事情があり、便りがないのか。俺は、姉さんが、今どのような状態になっているのか、末代に尋ねた。末代は、俺の質問を聞き、どこか遠くを見るような目をした。しばらく考える素振りを見せたあと、末代は俺に視線を向けた。

「正直なところ、私も分かりません。生きているのか、死んでいるのか。生きているとして、どうなっているのか。明確なことは、何も言えません。過去に例がないからです」

 俺の顔には、おそらく落胆の色が、現れていただろう。末代は、済まなさそうな表情をして、俺を見た。しばらく沈黙が続いたあと、末代が俺に話しかけてきた。

「佐々波先生の話では、あなたが、偽剣を取り出したと聞きました。そうなのですね?」
「そうです。それについて疑問があります。どうして俺は、封印を抜けて、偽剣までたどり着けたのでしょうか?」

 俺は、波刈神社で分からなかったことを尋ねる。朱色の文字の影響を受けず、俺は偽剣の前まで行けた。針丸はその影響を受けて、幻に惑わされていた。

「あなたは、お母さまか、お姉さまから、何か預かっていませんか?」

 末代の問いに、俺は記憶をたどる。預かっているものとは何だろう。俺は、胸元に手を当て、そこに、母さんにもらったお守り袋があることに気付く。俺は、懐からお守り袋を出して、末代に向けた。

「中に、護符が入っていませんか?」

 そういえば、中に折り畳まれて、こよりで縛られた紙切れが入っていた。俺はお守り袋を開き、霊珠と写真を取り出す。そして、一番底に入っている、紙切れを手に取った。

「開けても、よいのですか?」

 末代は、首を縦に振る。俺は、こよりをほどき、畳まれた紙を広げた。そこには、朱色で「許」という文字が書かれていた。霊の墨による筆跡だ。もし、霊珠と出会う前に開いていれば、それは白紙に見えただろう。

「これは?」
「私が書いたものです。霊珠を授けた通い巫女たちに、渡したものです。いずれ、私が死んだあとに、偽剣が必要になることもあると考えたからです。
 その呪言は、持ち主の死により消えます。貴子さんは、あなたにそれを与えたのでしょう。そして、持ち主があなたに変わった。だから消えずに、その文字が残り続けたのでしょう。あなたは、お母さまの護符により、偽剣にたどり着いたのです」

 俺は、末代の告げた事実に驚く。俺が常に身に着けていたお守りに、そういった力があったとは知らなかった。

「貴士さんと、言いましたね?」
「はい」
「あなたは、森木の家の人間です。あの日、貴子さんは、竜爪寺に向かいました。そして、日和さんは、風見山を目指しました。
 竜爪寺は、森木家の檀家寺です。風見山は、海峡を見渡すことができる山です。霊珠を得て、能力を開花させたあなたには、それらの場所は、これまでとは違うように見えるかもしれません。一度訪れてみるとよいでしょう」
「その二つの場所にも、偽剣があったのですか?」
「ええ」

 訪問しなければならないだろう。母さんと姉さんが戦った場所。その地には、行方不明の姉さんへと繋がる、鍵があるのではないかと、俺は思った。

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