雲居 残月 の 小説道場

主に「小説家になろう」で書いた話を中心に、小説投稿をおこなっていきます。

第48話「末代訪問 その5」-『竜と、部活と、霊の騎士』第7章 訪問

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◇森木貴士◇

 俺たち、竜神部の部員は、島裏の多津之浦にある、龍之宮家の屋敷に来ている。目の前には、竜神神社末代の、龍之宮玲子がいる。座布団の上に端座する末代は、俺たち新入生のために、八布里島の歴史を語り始めた。

「八布里島の歴史は、大きく分けて五つに分けられます。太古の時代、平安時代末期、南北朝時代、戦国時代、そして現代です。
 太古の時代は、伝説の時代です。その昔、八布里島は、本土と繋がっていました。そこに一匹の竜がやって来たことで、分断されたのです。竜は、大地をうがち、長い谷間に、海の水を引き入れました。その竜が、竜神海峡の竜神です。

 本土と島の間に横たわる海峡の底には、今でも竜神が眠っています。これは、比喩ではなく事実です。海峡の長さの竜が、現実に存在して、海の底で寝ているのです。ただ、その体が霊体でできているために、普通の人の目には、触れることがないのです。
 あなたたちは、偽剣が霊体を実体化する現象を、見たと聞いています。太古の時代には、そういった、霊体と物体が揺らぐ現象が多く起きていたのです」

 伝説の時代の話。末代は、最初にそう断った。にわかには信じられない話だった。俺が毎日見ている竜神海峡が、自然の作用ではなく、霊体の竜神という存在によって作られたというのか。
 しかし、俺の視線の先にいる末代は、その言葉を迷いなく、真実として俺たちに告げた。いいだろう。その言葉を、そのまま受け入れよう。これまでの常識で考えては駄目なことは、この数日で分かった。その現象の中心にいる人物の言葉を、自分の尺度で測っては見誤る。
 竜神海峡は、霊体の竜神が作った。その話を、ありのままの事実として、俺は呑み込むことにした。

「次は平安時代末期です。八布里島の歴史の、本当の発端は、この時期に起きた出来事によっています。みなさん、この国を総べる、霊的な存在が誰だか、ご存じですか?」

 急な質問に、俺は戸惑う。こういった問題に答えるのは、DBの役目だ。俺は、DBに視線を向けて、答えを求めた。

天皇ですか?」

 DBは、末代に尋ねる。末代は顎を引いた。末代は、DBの答えを受けて、話を再開する。

「その天皇が、都を追われ、三種の神器を持ち、海を渡ったという事件が、平安時代の末期にありました。天皇を擁する平家が逃げ、武家の世を築こうとする源氏が追ったという、歴史的な戦いです。あなたたちも学校で習ったと思います。そして、その決戦が、竜神海峡でおこなわれました。あの海峡で、多くの兵士が戦い、命を落としたのです」

 俺は思い出す。波刈神社での戦いの時、海峡を埋めつくさんとする和船が現れたことを。そして、大鎧を着た武者たちが、赤と白の旗をひるがえしていたことを。赤は、源氏の旗の色だ。白は、平氏の旗の色だ。竜神海峡では、平安時代の末期に、大きな海戦がおこなわれた。俺はそのことを思い出す。

「その戦の折、幼い天皇が、海に身を投げて死んだのです。その際、三種の神器の一つである霊剣を抱えて、海に飛び込みました。それが、この八布里島の抗争の、すべての発端でした」

 俺の心臓が、どくんと鳴る。母さんが俺に教えてくれた話が、脳裏に蘇る。

 竜の眠る海。そこに沈んだ剣。

 竜とは、竜神海峡の竜神だ。剣とは、海に没した三種の神器の一つである霊剣だ。この二つが、すべての始まりになっているというのか。俺は末代の顔を窺う。末代は、凛とした表情で話を続ける。

「その霊剣は、この国を霊的に総べる存在の持ち物です。そういった崇高な道具であるために、とても強い力を持っていました。その力とは、太古の霊的な状態を、現世に蘇らせるものです。それは、霊体と物体の、橋渡しをする能力です。霊剣は、霊体を物体に変え、物体を霊体に変えることができました」

 俺は、末代の話を聞いて混乱する。

「末代」

 俺は、思わず声を出す。

「何ですか?」
「霊体を物体に変える力とは、偽剣の力ではないのですか?」

 俺は、自分が右手に握った、青白い円柱の姿を思い浮かべる。末代は、俺に目を向けたまま、質問に答えた。

「実は、偽剣は、霊剣の模造品なのです。そのことについては、このあと説明します」

 俺は頷き、耳を傾ける。

「幼い天皇とともに海に没した霊剣は、その切っ先を下に向けたまま、海の底へと沈んでいきました。その霊剣は、霊体を物体に変えることができます。その剣が海の底へ向かった時に、いったい何が起きたか分かりますか?」

 末代は、俺たちの顔を見渡す。DBが、苦い顔をして口を開いた。

「海の底には、竜神が眠っているんですよね?」
「そうです」
「そいつに、刺さったんじゃないですか?」
「正解です」

 末代は姿勢を正して、続きを語る。

「霊剣の刺さった竜神は、血を流し、海峡で暴れ、八布里島と、海峡に面した本土に、津波を起こして、被害をもたらしました。戦で戦った者たちの多くは、この竜神の災禍に巻き込まれて亡くなりました。そして海には、百八個の霊珠が現れたのです。その霊珠は、竜神が流した血が固まり、できたものでした」

 俺は思い出す。波刈神社の死闘で、多くの和船と武者が現れたことを。そして、黄金の騎槍で破壊した殺人鬼の霊珠が、血液のようになり、海の波に溶けて消えたことを。

「時代は、平安から鎌倉に移りました。天皇という貴人の魂と、霊剣を突き立てられた竜神の心を鎮めるために、竜神神社が建立されました。そして宮司として、龍之宮家が設けられたのです。龍之宮家は、島の各地に神社を作り、その本社を島裏の多津之浦の岩礁に作りました。
 その場所が、最も竜神海峡の津波の被害を受けていない場所だったからです。そして、その場所に霊珠を安置しました」

 末代は一呼吸置いて、次の話に進む。

「次は、南北朝時代の出来事です。
 朝廷が、南朝北朝に分かれて争った時期に、竜神海峡は霊剣の眠る場所として、脚光を浴びたのです。霊剣を保持していれば、天皇としての正統性を主張できる。失われたあと再び作られた剣ではなく、太古から伝わる強い力を持った剣を、手に入れる。その目的のために、いくつかの勢力が、八布里島を攻略しようとして、やって来ました。
 しかしその襲来は、島の人間にとっては、困惑するしかないことでした。なぜならば、霊剣は、一度も人の目に触れたことがなかったからです。海女が波の下にもぐっても、発見することはできませんでした。

 見つからない理由は、霊剣の能力のせいだと、考えられていました。霊剣は、霊体と物体を行き来させる能力を持っています。竜の背に刺さった霊剣は、その衝撃で物体化した竜が霊に戻った際に、引き込まれるようにして実体を失い姿を消した。島の人間たちは、そう考えました。
 しかし、そういった話を襲撃者に伝えても、事態を解決することはできません。彼らは、霊剣を持ち帰ることに執着しているからです。

 降りかかる火の粉は、自らの手で、振り払う必要があります。そこで竜神神社の、当時の宮司は、一計を案じました。霊珠の中でも、特に大振りで強い力を持っていたものを八つ選び、霊剣の形代を作りました。限定的な力を写し取った模造品です。
 通常、霊珠は、意識の雛形に、人の霊力を流し込むことで、霊術を発動させます。その代わりに、姿のない霊剣の姿を想像して、人の寿命を削るほどの霊力を、注ぎ込むのです。そうすることで、霊珠自身を変形させて、偽剣へと昇華させます。それができるのは、霊珠が竜の血でできており、その竜が霊剣と繋がっているからです。
 偽剣を作った者たちは、その後、短い時間で死に至ります。偽剣を作るために、龍之宮の人間が、何人か命を投げ出しました。

 偽剣は、本物の霊剣には及びませんが、限定的な物体化能力を有します。私のご先祖様たちは、その偽剣を携え、襲来してくる者たちを撃退したのです。
 そして、南北時代は去り、世間は霊剣の存在を忘れました。龍之宮の一族は、八布里島の各所に、偽剣を隠しました。そのうちの一振りだけは、有事の際にすぐに使えるようにと、龍之宮家の者が保管しました。
 その後、代々の宮司が、一振りの偽剣を携え、残りの七振りの偽剣の封印を、強化し続けました。なぜ、わざわざ分散して隠したかと言うと、すべての偽剣を集めると、霊剣の在り処が分かるという、言い伝えがあったからです。限定的な力の偽剣でも、八本も集めれば、大きな力を発します。その力が、霊剣を実体化して呼び戻すと考えられたからです。

 ともかく、七振りの偽剣は島の各所に封印されて、年月が過ぎ去りました。そして、戦国時代の事件が起きたのです」

 末代は、しばし沈黙したあと、続きを語り始めた。

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