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雲居 残月 の 小説道場

主に「小説家になろう」で書いた話を中心に、小説投稿をおこなっていきます。

第44話「末代訪問 その1」-『竜と、部活と、霊の騎士』第7章 訪問

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◇森木貴士◇

 土曜日の朝、七時五十分。空は青く澄んでいる。雲は、まばらに見えるだけで、まるで夏の空のような色をしている。
 松海公園の入り口。その場所で俺は、DBとアキラを待っている。一緒に学校に行くためだ。今日は、竜神部のメンバーで連れ立って、多津之浦にある末代の家を、訪れる予定になっている。

「少し早く、来過ぎたかな」

 俺は、周囲を見渡す。公園の入り口には、シュロの木が植えられており、南国の庭園のようになっている。その、シュロの木に囲まれた道を、奥に進んだ場所には噴水がある。公園は、そこから放射状に道が伸びている。
 俺は、噴水に目を向ける。水が作るアーチが大きくなり、ふっと消える。それが、数秒に一度、リズムよく繰り返される。そのたびに、噴き上げられた水が、イルカのように池に飛び込む。俺はその噴水を眺め、一人で物思いにふける。

 波刈神社での死闘から、数日が経過していた。俺の心の中には、この幾日かの記憶が、まともに残っていない。
 学校に行き、授業を受けた。放課後は、竜神部の部室を訪れて、佐々波先生の振る舞うお茶を飲んで帰った。家では、父さんに心配された。しかし、すべてを語るわけにはいかず、何でもないと答えた。
 きっと父さんは、俺が厄介なトラブルに巻き込まれていると思っているだろう。あの日、針丸姉妹が店の戸を破壊した。俺の周りで暴力沙汰が起きていることは、すでに父さんの知るところとなっている。

 俺は、無言で噴水を見る。水は飽きることなく、同じ動きを続けている。俺の心を占めているのは、人を殺してしまったという後悔だ。これまでの人生を通して、自分自身が殺人者になることは、想像していなかった。
 針丸姉妹の本名は、播磨一花に、播磨二葉だった。免許証には有馬一花、二葉とあったが、それは偽名だということを、DBが突き止めた。DBは、彼女たちの住居から、遺留品を回収した。そして、探偵を雇い、本当の名前と素性を調べさせたそうだ。
 播磨姉妹は、父親が逮捕され、母親が蒸発して、施設に入っていた。中学卒業とともに歓楽街に入り、そこから足取りが途絶えた。その時期に、竜神教団と接触して、信者になったのだろう。DBは、調査結果を基に、そう説明してくれた。

 俺が殺した相手は、この世界で確かに生きて、暮らしていた人間だった。
 朱鷺村先輩は、人の死を闇に葬ることに、何のためらいも持っていないようだった。雪子先輩は、そもそも気にも留めていない様子で、他人の死自体を、日常に感じている口ぶりだった。
 DBは、二人の先輩とは違った。明日は我が身という警戒とともに、精力的に情報を集めて、俺に報告してくれた。アキラが、一番俺に近い感情を抱いていた。虚脱状態になった俺の横に寄り添い、優しく声をかけてくれた。
 そういった、DBやアキラのおかげもあり、俺の心は、次第に平穏を取り戻しつつある。人の心は、時とともに、痛みや苦しみを忘れる。そういった心の力を、俺はこの数日で経験していた。

「シキ!」

 DBの声が聞こえてきた。私服のDBが、噴水の方から歩いてきた。DBの家からは、道路を通るよりも、公園を抜けてきた方が近い。入り口までたどり着いたDBは、ハンカチで汗を拭いたあと、板チョコを出して一欠片かじった。

「食べるか」
「ああ」

 少しだけもらって口に運ぶ。甘味とともに、苦い味が口の中に広がった。

「アキラは、まだなのか?」

 DBが、商店街の方を見ながら尋ねてくる。

「まだだ」
「そうか。少し早いしな」

 DBは、考える素振りをしたあと、真剣な顔をした。

「シキ。針丸姉妹の一件だが、心の整理は付いたか?」
「だいたいな」

 俺は、心配させないように答える。DBは俺の表情を窺ったあと、口を開いた。

「今日は、末代のところに行くからな。これまで聞いていない、どんな話が飛び出すか分からない。変に引きずっていたら、心が潰されるかもしれない。気を付けろよ」

 DBは、俺のことを心配している言葉をかける。その台詞を言い終えたあと、何か話したいといった、様子を見せた。

「何か、新しいことが分かったのか?」
「ああ。七人の殺人鬼と、凪野弥生の繋がりだ」

 俺は、DBに目を向ける。そういえば、探偵に依頼して、調べてもらっていると言っていた。

「やはり、繋がりがあったのか?」

 DBは首肯する。

「凪野弥生は、大学時代に、教授に付いて刑務所に行き、受刑者たちと面談をしていた。そのリストを入手した。その中に、全員名前があった。おそらく、その事実は警察もつかんでいたのだろう。しかし、過去に会ったという理由だけで、逮捕することはできない。明確な関係や、共謀は立証できなかったのだと思う」

 凪野弥生と、七人の殺人鬼の間には、繋がりがあった。DBが予想していた通りだ。DBはこうやって、推測でしかない出来事を、証拠を集めて、事実として埋めていく。一緒にビジネスをしている時もそうだ。徹底的に数字を集めて、思い込みや希望的観測を潰していく。

「あと、針丸姉妹について、新しい事実が分かった」
「何だ?」
「有馬一花、有馬二葉。その偽名で借りていたアパートだが、保証人が教団の在家信者だった」
「つまり、竜神教団の手の者だったわけか」
「そういうことだ。凪野弥生は、七人の殺人鬼に続く、新しい刺客を送り込んでいるというわけだ」

 こちらも、想像通りの背景だ。DBは、さらに台詞を続ける。

「針丸姉妹は、探索人という言葉を告げた。今回は、殺人鬼ではなく、探索を目的とした人員を、複数送り込んでいるのだろう。
 これから先、どこで、そいつらと出会うか分からない。針丸姉妹たちの目的が探索にあるのならば、上層部に必ず報告をしているはずだ。その報告が、二人の死のあと途絶えている。あの二人に、何らかのトラブルが起きたことは、もう敵に気付かれているはずだ。今後、その報復がある可能性が大いにある。
 なあ、シキ。針丸姉妹は、人を殺すことにためらいを持っていなかったんだよな?」

「ああ」
「そうならば、他の探索人も同じような考え方だと、思うべきだ。敵は、こちらを殺すことを躊躇しない。だから、シキ。あの二人の死を引きずるな。それは、お前の死を招く。一瞬の迷いが生死を分けることだってあるだろう」

 つまり、進むのならば、覚悟を決めなければならないということだ。俺は、DBの目を見て、安心させる笑みを作る。俺は親友に、もう大丈夫だと告げる。DBは、硬い表情のまま、俺に目を向け続けた。

「うわっ! 二人とも、もう来ていたの?」

 商店街の方から、声が聞こえてきた。振り返ると、私服姿のアキラが、こちらにやって来ていた。
 パーカーに、ショートパンツに、スニーカーという動きやすい服装に、ショルダーバッグをかけている。活動的なアキラの性格に合った服装だ。ショートカットで日焼けした顔にも似合っている。そういった組み合わせの中、パステル調の色合いをしたパーカーとシャツが、春らしさを感じさせていた。

「お前、相変わらず色気がないなあ」

 DBが、アキラをからかうようにして言う。アキラは、DBをにらんで、頬を膨らませる。

「悪うございましたね。遠出だし、廃ビルの時みたいに、いきなり戦闘をやらされる可能性も考えて、こういった服を選んできたのよ」

 アキラの台詞を聞いて、DBが渋い顔をする。

「ああ、確かにありそうだな。末代というのが、どんな人か知らねえが、あの部長と副部長なら、平気で俺たちを死地に送り込みかねないからな」
「でしょう! そう思って、動きやすい格好にしてきたのよ。私だって、ちゃんと考えているのよ」

 アキラは、パーカーの袖を持ち、両手を広げてくるりと回る。不覚にも俺は、なかなか可愛いじゃないかと、思ってしまった。俺のそういった表情を見て、アキラは嬉しそうに口を横に開いて、笑みを浮かべた。
 俺は照れ隠しのために、スマートフォンを取り出して、時刻を確認する。八時になった。予定の時間だ。

「そろそろ学校に行くか?」
「そうね。集合は八時半だから、ゆっくり行きましょう。DBは付いてこなくていいわよ。私とシキとで、デートしながら学校まで行くから」
「おいおい、勝手なことを言うなよ。それじゃあ、シキが可哀想だろう。色気のない女と、デートも糞もないだろう。さっさと学校に行こうぜ」

 相変わらずの、DBとアキラの舌戦の間に立ち、俺は頬を掻く。まあ、この友人たちがいる間は、難しいことで悩まずに済みそうだ。俺たちは、三人で駄弁りながら、土曜日の学校へと歩き始めた。

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