雲居 残月 の 小説道場

主に「小説家になろう」で書いた話を中心に、小説投稿をおこなっていきます。

第35話「月下の死闘 その3」-『竜と、部活と、霊の騎士』第5章 決闘

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◇森木貴士◇

 竜神海峡に浮かぶ和船の船底。白銀の全身鎧をまとった俺は、左手に黄金の騎槍、右手に青白い偽剣を持ち、全身に力をみなぎらせる。目の前には、当世具足を身にまとった、二体融合の鎧武者がいる。戦国時代の武者の怨霊と、現代の殺人鬼が融合した怪物。その手には、ぎらつく太刀が握られている。
 板子の上には、平安時代の武者たちがいる。彼らは太刀を抜き、弓に矢をつがえ、俺たちの様子を窺っている。どうやら彼らは、鎧の怪物に操られているわけではないようだ。鎧武者は、俺から偽剣を奪って、彼らを配下に置くつもりだったのだろう。
 まだ支配が及んでいないのならば、彼らに戦いを妨害されることはないはずだ。

 俺は、鎧の内側の筋肉を動かして、跳躍する。重い鎧をまとったまま、背の高さ以上跳び、板子の上に着地した。人間は頭上からの攻撃に弱い。そして、武器のリーチはこちらの方がある。俺は騎槍を、鎧武者の頭目がけて突き出す。しかし、敵は、座して待ってはくれなかった。裂帛の気合いとともに、円を描くようにして太刀を振った。

 足下がぐらつき、騎槍が逸れる。船が輪切りになり、分断されていた。
 船は傾き、沈み始める。霊体が実体化した敵と違い、俺は生身だ。飛び移る先を求めて、周囲の船を見る。
 バッタのように跳躍して、近くの和船に移る。鎧武者は、半透明の霊体になり、海を越えて、俺の近くで実体化した。想定外の動きに、俺の対応が遅れる。敵の太刀が頭上に掲げられて、月明かりに白々と輝いた。

 銃声とともに、光の渦巻きが、頭上から降ってきた。雪子先輩の銃だ。鎧武者の、兜の頭が打ち砕かれ、すぐに再生を始める。

「シキ君! 偽剣を私に向けて投げろ!」

 朱鷺村先輩の声だ。朱塗りの柵から、身を乗り出して叫んでいる。武器を一つ手放せと言うのか。それでは、身を守る術が減ってしまう。しかし、考えあってのことだろう。信頼するしかない。
 俺は、偽剣を槍のように構えて、崖の上の朱鷺村先輩目がけて投げる。青白い剣は、光の軌跡を描きながら上昇する。その棒状の霊体を受け取った朱鷺村先輩は、偽剣を掲げて大声で吠えた。
 朱鷺村先輩の体が青白く輝く。彼女の体に、強い霊力が流れ込んでいるのが分かった。偽剣の外に放たれていた霊力は、朱鷺村先輩へと向かう。

 偽剣が遠ざかり、そこから放出される力が弱まったことで、船がおぼろげになる。俺を支えていた板が霞み、足下があやふやになっていく。目の前の鎧武者も、実体を失っていた。その力は大きく後退して、今なら倒せそうだと感じた。
 俺は、鎧武者をにらむ。その胸元に、光が見えた。月明かりを受けて、虹色に輝いている。霊珠だ。殺人鬼が持っていたのだろう。そのきらめく球体が、融合した体の、要の部分にあった。

 倒せる!

 俺は、敵の攻略法に気付き、騎槍を構える。消えゆく板子の上を駆け、跳躍した。騎槍の先端を、霊珠に向ける。そして、全身を一つの兵器と化して襲いかかる。
 黄金の騎槍が、虹色の霊珠に触れた。球体に、大きな圧力がかかり、砕け散る。光が弾け、粉々になった破片は、海の上に降り注いだ。海面に落ちた霊珠の破片は、水に溶け、赤い血のようになり沈んでいく。

 鎧武者と殺人鬼が、分離していた。船底に着地しようとした俺は、そのまま底板を突き抜けて、海に没した。船の物質化が、完全に解けたのだ。俺の体を覆っていた鎧と騎槍も、霊の状態に戻っている。
 浮き上がった俺は、敵の場所を確認する。

 俺は、まだ戦える!

 物質化は終わったが、俺の闘志は燃え盛り続けている。霊の騎士は、いまだ健在だ。俺は冷たい海の中で向きを変えて、騎槍を銛のように持ち替えた。狙うは殺人鬼だ。
 春の夜の海が、俺の体を急速に冷やす。寒さに意識が奪われる前に、俺は自分の仕事を完遂しようとする。
 騎槍を投げた。細長い武器は、隼のように空を切り、殺人鬼を串刺しにした。悲鳴とともに、殺人鬼は霧散する。

 俺は、もう一方の敵、鎧武者へと顔を向ける。鎧武者は怨霊らしく空を飛び、朱鷺村先輩目がけて飛翔していた。偽剣を奪い、再び肉体を手に入れるつもりだ。戦国時代に叶えられなかった復活を果たして、現世に戦乱を呼ぶつもりだ。
 鎧武者が向かう先には、青白い光が揺らめいている。朱鷺村先輩は、偽剣と自身の刀を重ね合わせて、一振りの太刀にしていた。美しかった。青白い光に照らされた朱鷺村先輩は、伝説の戦乙女のようだった。

 朱鷺村先輩の斬撃が、鎧武者の胴を分断する。切断面が、青白い炎に包まれて燃え上がる。鎧武者の怨嗟の悲鳴が、海峡に響いた。俺の周囲の和船が、次々と姿を消していく。戦いが終わったことが分かった。