雲居 残月 の 小説道場

主に「小説家になろう」で書いた話を中心に、小説投稿をおこなっていきます。

第171話 挿話40「生徒会選挙と雪村楓先輩」-『部活の先輩の、三つ編み眼鏡の美少女さんが、ネットスラングに興味を持ちすぎてツライ』

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 花園中学は、頭がお花畑の人間が通う中学ではない。花園という地域に存在している、まともな中学校だ。その花園中の文芸部には、勝手気ままな者たちが集まっている。そして日々、自由を求めて奮闘している。
 かくいう僕も、そういった自由主義系の人間だ。名前は榊祐介。学年は二年生で、厨二病まっさかりのお年頃。そんな僕が、部室でいそしんでいるのは、備品のパソコンでネットを巡回して、何の役にも立たないネットスラングを調べて喜ぶことだ。

 そんな、他人に縛られない面々の文芸部にも、慎ましやかな人が一人だけいます。雲のジュウザのパーティーに紛れ込んだ、南斗最後の将ユリア。それが、僕が愛してやまない、三年生の雪村楓先輩です。楓先輩は、三つ編み姿で眼鏡をかけている文学少女。家にはテレビもなく、活字だけを食べて育ったという、純粋培養の美少女さんです。

 そんな楓先輩と僕の文芸部は、横暴な満子部長のせいで、大変なことになっていた。生徒会選挙に、二年生全員が無理やり立候補させられたのである。えー、あのー、マジですか? マジなようです。そういったわけで、泣く泣く僕は、生徒会長を目指すべく、活動を展開しているのである。

 文芸部の先輩たちが、日替わりで補佐に付いてくれている生徒会選挙活動。なぜかその補佐はくじ引きで決まり、僕は満子部長と鷹子さんばかりを引き当てていた。
 ええい、楓先輩はおらぬのか! どうやら僕は、くじ運が悪いらしい。しかし、絶望の淵で引いたくじが、ようやく楓先輩を引き当てた。そしてこの日、僕はやっと、楓先輩と一緒の選挙活動になったのである。

「よ、ようやく楓先輩との行動です。僕はこの日を、一日千秋の思いで待ち望んでいました!」
「そうなの?」

 瑠璃子ちゃんと話していた楓先輩は、にこにこしながら僕に振り向いた。

「それで、サカキくん。今日は何をする予定なの?」
「ええと、それは瑠璃子ちゃんに聞かないと分からないですね」

 選挙参謀役の瑠璃子ちゃんは、椅子に座っている。僕は、その瑠璃子ちゃんに、今日の予定を尋ねる。

「ねえ、瑠璃子ちゃん。僕は楓先輩と一緒に、何をすればいいの?」

 一年生で天才児、ロリ系美少女の氷室瑠璃子ちゃんは、僕を蔑むような目で見て答える。

「今日は、サカキ先輩に激似の帰宅部の人、にアタックをかけてもらいます」
「激似って、イケメンってこと?」

「呆れますね。サカキ先輩は、美的感覚が狂っているようです。脳に何らかの欠陥があるのでしょうか?」

 瑠璃子ちゃんは、相変わらずの毒舌で僕の心をズタズタにする。

「じゃあ、どんな人?」
「オタクな人たちです。きっとサカキ先輩と話が合うでしょう」

「えー、そうかな。そんなことはないんじゃないの。それで、彼らはどこにいるの?」
「主に校舎裏に出没することを確認しています。ただし、彼らは不良が苦手です。鉢合わせになると、蜘蛛の子を散らすようにして逃走します」

「ということは、僕の支持母体である不良集団に見つからないように部室を出て、校舎裏に行かないといけないということだね?」
「そうです。サカキ先輩は、楓先輩と二人で、そのミッションを達成してください。私の作戦通りなら、それでサカキ先輩の得票数は、全校生徒数の二パーセントほど増えるはずです」

「微増だね」
「ええ。サカキ先輩に相応しい数字だと思います。サカキ先輩の魅力は、細かすぎて伝わり難いものですから」

「そんなに分かり難いの?」
「ええ。サカキ先輩の魅力は、鼻毛のようなものです。近付くと見えて気になるけど、離れていると見えずにまったく分かりません」

「そうか。僕は鼻毛だったのか」

 僕は意気消沈しながら、楓先輩の許にふらふらと歩み寄った。

「それじゃあ、楓先輩。校舎裏に行きましょう」
「うん。でも、部室の前には、不良さんたちが、あぐらをかいて座っているよ」

「えっ、マジですか?」

 僕は、そっと窓の隙間から廊下を見る。そこには、今日の有権者狩りを、今や遅しと待つ、狩人の集団がたむろしていた。
 やばい。このまま出ていったら、僕は「グラディウス」のビックバイパーになり、不良という名のオプションを引きつれて、廊下を進んでいくことになる。

「どうしましょう、楓先輩」
「私がおとりになろうか?」

「いえいえ、そんなことはさせられません。それなら僕がおとりに」
「それじゃあ、意味がないよね」

「ぐ、ぐぐぐ」

 僕は頭を悩ませる。

「アホですか、サカキ先輩は。扉が駄目なら、窓から出ていけばいいじゃないですか」

 椅子の上で、机に向かっている瑠璃子ちゃんが、呆れたように声を出す。そうだった。ここは一階だった。窓から出て、こっそりと移動すれば、廊下側にいる不良には気付かれない。さすが瑠璃子ちゃんだ。

「じゃあ、楓先輩。窓から行きますか」
「うん。そうしよう」

 僕は窓枠をまたいで、廊下に出る。楓先輩は、うんせ、うんせと、体を横にして、スカートを押さえながら窓を超える。
 僕は部室の中を見た。瑠璃子ちゃんは、真剣な顔で机に向かい、全校生徒の名簿をチェックしている。どうやら本気でこの選挙に勝つ気らしい。瑠璃子ちゃんは負けず嫌いだからなあ。満子部長の人選の正しさを思いながら、僕は楓先輩と、校舎裏に向かった。

「そういえば楓先輩」

 僕は移動の途中、楓先輩に声をかける。今頃、睦月は各部活を回って選挙活動をしているはずだ。そして、鈴村くんは、地道な握手作戦で、放課後の学校を巡っていることだろう。

「楓先輩は先ほど、瑠璃子ちゃんと、何を話していたんですか?」

 僕の質問に、楓先輩は笑顔で声を返してきた。

「文章を書かないかとすすめていたの」
「どんな文章ですか?」

「生徒会選挙の記録よ」
「選挙の議事録みたいな奴ですか?」

 僕は疑問に思ったので尋ねる。楓先輩は、三つ編みの髪をゆらして、首を横に振った。

「文芸部の作品よ。瑠璃子ちゃんは、文章を書くことには興味がないみたいだから。自分が計画を立てて実行した選挙の話なら、書く気になるかなと思って」

 あっ、なるほど。そういえば、満子部長が、瑠璃子ちゃんが文章に関心のないことを心配してた。先輩たちの間では、その問題意識が共有されているのだろう。

「それで、瑠璃子ちゃんは、文章を書きそうですか?」
「ううん。それよりも選挙で勝つことの方に熱心みたい」

 まあ、そうだろうなと思う。瑠璃子ちゃんは、こつこつと文章を書くよりも、勝負事の方が好きだ。
 そういった話をしているうちに、校舎裏までやって来た。運動場の反対側にある校舎の裏手。そこは、壁との間が数メートルほど空いている。足下には雑草が生え、地面には側溝がある。その場所に、十人ほどの生徒がいて、座ってマンガを読んでいた。
 そこにいる生徒たちは一年生だった。小太りだったり、ガリガリだったりと、スポーツとは無縁そうだ。その姿は、どこからどう見ても、オタク系という感じである。

「ねえ、君たち」

 僕は、同じオタク系という気安さで声をかける。彼らは、僕に視線を向けたあと、目を逸らした。そして、マンガで顔を隠して、読書を再開した。どういうことだろう? 僕は一人の横に移動する。僕は、なぜ無視をするのか尋ねた。

「リ、リア充とは、話したくありません」

 どういうことか? 僕が首をひねっていると、楓先輩がやって来て、その一年生に話しかけた。

「ねえ。顔を上げて、話を聞いてちょうだい」

 一年生は、一瞬だけ顔を上げて、恥ずかしそうに、本に顔を戻した。楓先輩は腰を下ろして、一年生にぴったり寄り添う。一年生は、顔を真っ赤に染めて、少し距離を取った。
 ああ、そうか。ここにいる子たちは、僕と楓先輩が、恋人同士だと勘違いしているのか。そうでなくても、女の子と一緒にいるような人間は、リア充だと思っているのかもしれない。
 これは、もしかして不良たちよりも、説得が難しいかもしれないぞ。僕はそう思い、楓先輩を呼んで、少し離れた場所に移動する。そして作戦会議を開いた。

「どうしましょう、楓先輩。彼らは、女の子と仲がよい男子を、あまり好ましく思っていないようです」
「どうしてなの?」

「彼ら自身に、縁がないからです」
「もしかして彼らは、人間嫌いなの?」

「いえ、コミュニケーションが苦手なだけです」
「そうなの? だから、校舎裏まで来て、マンガを読んでいるの」

 楓先輩は、不思議そうに尋ねる。
 そういえば、彼らはなぜ、家でマンガを読まず、こんな場所にいるのだろう。マンガを読む場所は、他にもいくらでもあるだろうに。僕は不良たちを思い出す。彼らも、学校のバラックに潜り込んでいた。それは、なぜだろうかと考える。僕は一つの仮説を立てる。その仮説を確かめるために、一人に声をかけた。

「ねえ、君たちは、雨の日にはどうしているの?」
「えっ? 仕方がないから、帰っています……」

「ということは、学校で遊びたいんだよね?」
「ええまあ」

「部活に入っている人には部室があるけど、そうでない人には集まる場所がない。だから、ここに来ているの?」

 マンガを読んでいた一年生たちが、顔を上げた。どうやら図星らしい。
 ここにいる人間も、選挙活動の前半に会った不良たちと同じなのだ。学校で仲間たちと時間を過ごしたいけど、部活に所属していないから居場所がない。読んでいるのがマンガだから、図書室などの正規の場所を借りられない。だから、自分たちの集合場所を決めて、こっそりと活動しているのだ。

 それって、少し理不尽だよなと僕は思う。学生時代に好きなことをやりたい。そのやりたいことは、人によって違う。学校が推奨するものならば支援されて、そうでないなら邪魔者扱いされる。
 この学校の十パーセントが、何の部活にも入っていない。その生徒たちは、今回の生徒会選挙に、何の意味を見出すのか。部活の予算をどうするか何て、彼らには関係ない。完全に蚊帳の外だ。僕は、一年生たちの前に行き、腰を下ろす。そして、同じ目線で語りかけた。

「ねえ。帰宅部の部室があれば、利用したい?」
「えっ?」

 戸惑いの声が返ってくる。

「あの、確か、サカキ先輩でしたよね。生徒会選挙に立候補している」

 初めて、まともに声を返してくれた。

「うん。文芸部の二年生、サカキユウスケだよ。こちらは、同じ部活の三年生、雪村楓先輩。見ての通りの、三つ編み眼鏡の美少女さんだよ」

 楓先輩は、僕の紹介にもじもじと照れる。僕は、オタク生徒たちに顔を向ける。

「ねえ。帰宅部の部室、欲しくない?」
「ええ。でも帰宅部は、部活ではないから無理じゃないですか? それに、部室に空きはないという話でしたし」

 もしかしたら彼らは、すでに先生たちに掛け合って断られたのかもしれない。マンガを読みたいから、放課後の教室を貸して欲しい。そう聞かれれば、先生たちは断らざるを得ない。だから、不良は古めかしいバラックに潜り込み、そこをアジトにしていた。帰宅部の一年生たちは、校舎裏に集まり、そこで遊んでいた。
 目の前の彼らを説得するには、どうすればよいか。僕は、頭の中で台詞を組み立てて語りかける。

「この学校って、九割の人が何らかの部活に入っているんだよね。でもそれは、残りの一割は、何の部活にも入っていないことを意味している。その人たちが、放課後に自由にできるスペースがあってもいいんじゃないかと思うんだ」
「具体的には、どういった場所ですか?」

 興味を持ったようだ。みんなの視線が僕に集まる。横では楓先輩が、僕の顔を見ながら話を聞いている。

「視聴覚室を借りられないかな?」
「個人では借りられないと断られました」

 彼らは彼らなりに、自分の居場所を求めて動いていたようだ。

「じゃあ、生徒会で借りて、一般生徒に解放するとかじゃ駄目かな?」
「……それなら、いけるかもしれないですね。今の会長だと絶対無理な話ですけど」

 一年生の目に希望の光が灯ったように見えた。僕がもし当選すれば、この約束は果たせるだろう。それに、僕ではなくても、文芸部の誰かが会長になれば、この話は実行することができるはずだ。僕は、そのことを一年生に告げた。相手は、わずかに表情をほころばせた。

「そうですね。少しだけ期待していいですか?」
「控えめだね」

「サカキ先輩は、落選しそうですからね」
「素直だね」

 僕は苦笑を漏らす。一年生も、笑みを浮かべながら声を出した。

「僕たちのところに、選挙活動に来た人は二人目です」
「そうなの? もう一人は誰なの」

 僕は、気になったので尋ねる。

「鈴村先輩です。僕たち全員と握手をして、熱心に話を聞いていきましたよ」
「そうなの? やるなあ、鈴村くん。君たちも、僕と握手する?」

 僕は、手を拭ってから差し出した。

「鈴村先輩なら嬉しいですけど、サカキ先輩は、どうでもいいです」
「うーん、そうかもしれないね」

 僕は、自分と鈴村くんを頭の中で並べて、どちらと握手をしたいか考える。少なくとも僕ではない。だから、仕方ないよなあ。そう思い、自分の心を納得させる。それから、彼らと三十分ほどマンガの話をしたあと、帰ることにした。

「じゃあね」
「選挙は、サカキ先輩に一票入れますよ」
「ありがとう」

 校舎裏を離れた僕は、楓先輩とともに、部室へと歩き始めた。帰りがけに、僕は楓先輩と話をした。

「この学校にも、いろんな人がいますね」
「うん。部活に入っている人も、入っていない人もいるね」

「先輩は、部活に入って満足していますか?」

 僕は、楓先輩の表情を見ながら尋ねる。先輩は、楽しそうな表情をして、答えてくれた。

「しているよ。違う分野とはいえ、同じように文章を書く、満子と知り合えたし。それに後輩だけど、文書を書くことに本気で向かい合っている、サカキくんとも出会えたし」

 楓先輩は、微笑んで僕の顔を見る。僕は、ドギマギしながら、頬を染める。

「僕も、先輩に出会えて嬉しいです」
「うん。知っているよ」

 先輩は、嬉しそうな表情をしてくれた。僕はその言葉に満足して、楓先輩と並んで文芸部の部室へと引き返した。

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