雲居 残月 の 小説道場

主に「小説家になろう」で書いた話を中心に、小説投稿をおこなっていきます。

第32話「波刈神社 その6」-『竜と、部活と、霊の騎士』第5章 決闘

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◇大道寺万丈◇

 社務所を調べたが、誰の気配もなかった。俺はスタンガン、アキラは金属バットを持ち、夜の波刈神社の境内を進んでいく。
 部長や先生に、連絡は付いただろうか。もし付いていないのならば、彼女たちに頼らず自分たちだけで、この問題を解決しなければならない。

 拝殿の近くまで来た。戸が開いており、物音が聞こえた。俺はアキラにサインを送り、近付くことを提案する。アキラは頷き、俺とともに、忍び足で移動を始めた。
 突如、空気が大きく揺れ動いた。霊の風圧とでもいうべきものが、体を駆け抜けた。

「ねえ、DB。今の感じた?」
「ああ」

 微かな声でやり取りをする。いったい何が起きたんだ。果たして、拝殿に近付いてよいのか、俺には判断が付かなかった。

「生き返った」

 女の声が聞こえて、俺は崖側の柵に目を移した。そこには、一人の女性が立っていた。ピンクのラメの服に、白黒の化粧。服のそこかしこに、装飾のように針が飛び出している。針丸姉妹の片割れだ。おそらく、先ほど崖の下で死んでいた奴だろう。その幽霊だ。彼女は、完全に実体化していた。その足下には、月の光を遮った、黒く濃い影が落ちていた。
 俺はスタンガンを構える。アキラは金属バットを振り上げる。生き返っただって。どういうことだ。先ほどの強烈な霊波が、何か影響しているのか。

 分からないことだらけだった。その中で、たった一つだけ分かることがあった。目の前の敵は、俺たちにとって危険だということだ。こいつを倒さなければ、拝殿に向かうことはできない。そうしなければ、背後から殺されてしまう。

「心が澄んでいる。すべてがすっきりとしている。まるで自分の中から不純物が消え、純粋な自分だけで、すべてが構成されているような気がする」

 女は一歩、二歩と近付いてくる。そのたびに、足下の砂利が軽やかな音を立てる。

「私の名前は、播磨二葉。お前たちの名は?」

 答えるべきか一瞬考え、無言のまま相手と対峙する。

「いや、最初の通り、針丸姉妹と名乗った方がいいかい?」

 播磨二葉は、体を大きく仰け反らせる。

 針が来る。

 俺は息を止めて、境内を駆ける。幽霊ではなく、物理的な肉体を持っているのならば、スタンガンが利くはずだ。横にいたアキラも飛び出した。金属バットを叩き付けるために、間近まで迫る。
 播磨二葉の針が、大きく伸びる。俺のスタンガンが弾き飛ばされ、アキラの金属バットが跳ね返された。俺は、慌てて距離を取る。そして、ポケットに手を入れた。

「スタンガンは弾き返せても、こいつはどうかな?」

 催涙スプレーを出して、播磨二葉に吹きかけた。

「ぎゃああーっ」

 悲鳴が上がる。播磨二葉は、顔を押さえて悶絶する。

「アキラ!」

 俺は叫ぶ。アキラの両手は、すでに鉄拳で覆われていた。その右拳が、敵に叩き込まれる。針と鉄拳。頑丈さは、鉄拳に分があった。針を砕いた拳は、相手の肉体に到達する。大きな金槌で体を打ったように、敵の体は、くの字に曲がる。
 アキラは、右拳を引く動作を利用して、左拳を打ち込む。敵の体が宙に浮く。左拳を引く力で、今度は右を放つ。アキラはそうして、息が続く限りの猛ラッシュを続けた。
 播磨二葉の体が崩れて、半透明のゼリー状になる。そのままスライムのように這い、死体がある崖の方に逃げようとする。

 アキラの拳が振り上げられる。全身全霊の力を、込めているのだろう。気合いとともに、その拳が不定形の霊体に叩き付けられた。
 耳を震わす絶叫が上がり、蠢く霊体が四散した。その瞬間、無数の針が飛び出して、俺たち二人の体を貫いた。

「ぐううっ」

 俺は膝を突き、アキラは地面に倒れ込む。しくじった。最後の最後で、反撃を食らった。相手の能力を考えれば、こういった攻撃も想定するべきだった。不幸中の幸いは、敵の物質化がすでに解けていたことだ。おかげで、肉体は傷付かず、霊体だけ損害を負った。
 しかし、手放しで喜ぶことはできなかった。俺は激痛のため、ほとんど身動きできなくなった。アキラも、苦しそうにうめいている。

「シキのところに行くわよ」
「おう」

 互いに、鼓舞するようにして言い合うが、体は痛みのせいで言うことを聞かない。俺とアキラは必死に体を動かして、取り落とした武器までたどり着く。だが、気力が持ったのは、そこまでだった。俺たちは、そこから一歩も先に、進めなくなってしまった。

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