雲居 残月 の 小説道場

主に「小説家になろう」で書いた話を中心に、小説投稿をおこなっていきます。

第167話 挿話38「生徒会選挙と文化祭と吉崎鷹子さん」-『部活の先輩の、三つ編み眼鏡の美少女さんが、ネットスラングに興味を持ちすぎてツライ』

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 花園中学は、頭がお花畑の人間が通う中学ではない。花園という地域に存在している、まともな中学校だ。その花園中の文芸部には、拳を血に染めた者たちが集まっている。そして日々、バイオレンスな日々を過ごしている。
 かくいう僕も、そういった世紀末覇者系の人間だ。名前は榊祐介。学年は二年生で、厨二病まっさかりのお年頃。そんな僕が、部室でいそしんでいるのは、備品のパソコンでネットを巡回して、何の役にも立たないネットスラングを調べて喜ぶことだ。

 そんな、剛の拳の使い手ばかりの文芸部にも、柔の拳の使い手が一人だけいます。ラオウだらけの銭湯に紛れ込んだ、トキ。それが、僕が愛してやまない、三年生の雪村楓先輩です。楓先輩は、三つ編み姿で眼鏡をかけている文学少女。家にはテレビもなく、活字だけを食べて育ったという、純粋培養の美少女さんです。

 そんな楓先輩と僕の文芸部は、横暴な満子部長のせいで、大変なことになっていた。生徒会選挙に、二年生全員が無理やり立候補させられたのだ。えー、あのー、マジですか? マジなようです。そういったわけで、泣く泣く僕は、生徒会長を目指すべく、活動を開始したのである。

「えー、あのー、僕たち二年生に、日替わりで先輩方が、補佐で付くのは分かりました。でも、鷹子さんが補佐に付いても、ろくなことはないと思います。できれば僕は、楓先輩とともに過ごしたいと思いますので、できればチェンジをお願いできないでしょうか」
「ああんっ!!??」

 ギリッギリッギリッ! と、拳を握り締める音が、部室に響いた。鷹子さんが、拳を握る音である。いきなりバイオレンスな展開だ。僕は、本日の選挙活動の、多難さを思って涙目になる。

 今日は、楓先輩は、睦月の補佐に回るらしい。そして、満子部長は、鈴村くんをサポートするそうだ。
 楓先輩と、鷹子さんと、満子部長。何だこの、三分の二の確率でババを引く、ロシアンルーレットは?
 楓先輩以外、全員ハズレじゃないか。楓先輩、エロ、暴力、この選択肢は、さすがにないだろう。できれば、すべての日程を楓先輩にして欲しい。僕は、絶望を感じながら、今日のパートナーである鷹子さんの姿を見る。

 鷹子さんは、高圧的で、暴力的で、僕にアニメや、マンガや、ゲームをよく持ってこさせるモヒカン族だ。そして、僕を部室の真ん中に立たせて、それらの作品の批評や解説をさせる、恐ろしい人だ。
 その鷹子さんは、長身でスタイルがとてもよく、黙っていればモデルのような美人さんだ。でも、しゃべると怖い。手もすぐに出る。武道を身に付けていて、腕力もある。ヤクザの事務所に、よく喧嘩に行く。そして、何もしていなくても、周囲に恐るべき殺気を放っている危険な人なのだ。

 僕は、そんな鷹子さんとの選挙活動に恐れおののきながら、選挙参謀役の瑠璃子ちゃんに、今日の予定を尋ねる。

「ねえ、瑠璃子ちゃん。僕は鷹子さんと一緒に、何をすればいいの?」
「人類の十パーセントの、ダメ人間の票をかき集めてもらいます」

 一年生で天才児、ロリ系美少女の氷室瑠璃子ちゃんは、ご無体な台詞を僕に返した。その台詞を受けて、鷹子さんが僕の首根っこをつかみ、立ち上がらせる。

「さあ、行くぞ、サカキ!」
「あの、どこにですか?」

「決まっているだろう。駄目人間の巣窟に行き、票田を開拓するんだよ」
「駄目人間の巣窟って、どこですか?」

 鷹子さんは、僕の質問に答えず、僕を引きずって、部室の入り口へと歩き出す。
 ああ、悪い予感しかしない。ジーザス・クライスト! 僕の運命は、悪魔の手に委ねられています。僕は、自分の行く末を心配しながら、ずるずると引っ張られて、廊下へと出ていった。

「さあ、しゃきしゃきと歩け!」
「えー、いちおう僕は、生徒会長候補ですよ。いわば、未来の最高権力者。そのキング予備軍たる僕に対して、この扱いはどうかと思うのですが」

「立候補だけなら、誰でもできるだろう。その大いなる見本が、サカキお前だ。それで、お前は、生徒会長として当選する可能性は、どれぐらいあると思っているのか?」
「えー、十パーセントほどですかね?」

 僕は、鷹子さんににらまれた。

「五パーセントぐらいですかね?」

 ゴゴゴゴゴ。鷹子さんの背後に、謎の擬音の書き文字が見えます。

「冷静に判断して、おそらく一パーセントを切っているものと思われます」
「まあ、それでも多いぐらいだ。サカキ、このままでは、お前の得票率は、〇・〇〇〇〇一パーセントぐらいだ」

 えー、それはさすがにないでしょう。それだと、全校生徒が一千万人ぐらいいないと、いけないですよ。楓先輩の一票は、いただけることになっているので、もう少し高いと思うのですが。

「それで、鷹子さん。僕をどこに連れていくつもりですか?」

 僕が尋ねると、鷹子さんは窓の向こうを指差した。そこには運動場が広がっており、その向こうに、古めかしいバラックが建っていた。僕は、記憶を手繰り寄せて思い出す。あそこは、この学校の禁断の地。不良の方々が巣くう、たまり場だったはず。

「ホエ~~~ッ!」

 僕は、鷹子さんの意図に気付いて奇声を上げる。

「ま、ま、まさか、鷹子さん。不良をぶん殴って従わせて、票にしようなんて考えていないでしょうね?」

「ぶん殴ったりしないぞ」
「よかったです」

「拳で語り合うのは、私ではなくサカキだからな」
「フワッ!」

「あいつら、自分より強い奴には、素直に従うんだよ。だから、サカキがガチバトルして、奴らに勝てば、そのまま票に結びつく。こんなシンプルな選挙活動は、他にないだろう。一足す一が、二になるぐらい明快だ。この学校の生徒が全員不良だったら、私が生徒会長になっていたのにな。惜しかったぜ」

 鷹子さんは、どこまで本気か分からない台詞を言う。僕は回れ右をして、文芸部の部室に戻ろうとする。

「おい、逃げるな!」

 むんずとつかまれた。

「戦略的撤退です」

 僕は、必死に言い訳をする。

「逃げても無駄だ。すでにサカキ名義で、果たし状は送っている。逃げたら校舎内で、『サカキを探せゲーム』が始まるぞ」
「な、何ですと!?」

「人生、それはサバイバル」
「あのー、鷹子さんが、僕を守ってくれるんですよね?」

「私は単なる立会人だ。サカキの死を見届ける役だ」
「勝手に殺さないでくださいよ~~!」

 僕は、足をばたばたさせて、悲鳴を上げる。
 そんな話をしているうちに、校舎の玄関に来て、靴を履き替えさせられた。そして、処刑台に運ばれる罪人のように、運動場に追い立てられた。僕はまるで、死刑囚のような足取りで運動場を横切り、鷹子さんとともにバラックへと向かっていく。

 バラックの前に着いた。
 ど、どうしろと言うのだ? 鷹子さんは、扉に手をかけて、勢いよく開いた。

「頼もう!」

 まるで道場破りのように、鷹子さんは叫ぶ。バラックの中には、十人の不良がいた。彼らは、床に寝転がって、マンガを読んでいた。

「ああんっ!!!」

 鋭い眼光とともに、威嚇するような声が聞こえる。

「えー、もしかして、この十人と戦うのでしょうか?」
「そうだ」

「十人倒しても十票じゃないですか。割に合わないですよ~~~!」
「地道な活動が、成果を結ぶんだよ」

「そもそも、一人だって倒せませんよ~~~!」
「いいから、戦ってこい! あー、お前ら。こいつが、果たし状を送ったサカキユウスケだ。こいつが勝ったら、お前たちは生徒会選挙で、こいつに一票を投じろ」

「はっ、舐められたものだな!!!」

 不良たちは立ち上がり、拳を握ってこちらへと歩き始めた。

「サカキ、さっさと部屋に入れ」

 僕は、鷹子さんに突き飛ばされて、バラックの中に入る。うっ、やばい。これって、どう考えても死亡フラグですよね? 僕は、顔を青く染めながら、不良たちと対面する。

「お前がサカキか?」
「えー、そういった名前で呼ばれることもあります。暴力反対!」

「果たし状を送った人間が、何を言っていやがる」
「えー、それはもしかして、果たし状ではなく、恋文だったのではないでしょうか?」

 僕は必死に知恵を絞って、相手の怒りの火を小さくしようとする。

「何。恋文だって?」

 不良の一人が、ポケットから手紙を取り出して広げた。

「本日放課後、拳により大いに語り合おう。もし、そちらが負けた場合は、こちらの軍門に下り、生徒会選挙に協力すること。
 おい、こら! このどこが恋文というんだ」
「こ、拳は、フィストと読みます! 語り合うとは、閨での房事を意味します!」

「な、何。フィストで房事だと?」

 不良たちがざわめく。彼らは、僕から離れて、半円形に取り囲んだ。

「やべえ、こいつ本物の変態だ」
「こんな奴に関わったら、俺たちの貞操の危機だぜ」
「というか、こいつは、とんだフィスト野郎だぜ」
「ああ。こいつ、俺たちの体験したことのない世界に生きていやがる」

 何だか、えらい変態さんだと思われているようだ。でも、相手の怒りの矛先を逸らすことには成功した。
 僕は喧嘩は強くないけど、鷹子さんのバトルはよく見ている。腕力で殴り合っているだけのように見えて、そこには、実は細かな駆け引きがあることを知っている。相手を脅す、怒らせる、驚かす、慌てさせる。そういった、精神的駆け引きの結果、吸い込まれるようにして、パンチが顔面にヒットしたりするのだ。
 僕は、状況打開のための情報を集めようとして、バラック内に視線を走らせる。

 !!

 僕は、勝機を発見した。

「もしかして、みなさんが読んでいたのは、『疾風伝説 特攻の拓』ではありませんか?」
「ほうっ!」

 不良の何人かが反応した。

「そして、そちらの方々が読んでいたのは、『カメレオン』ではないですか?」
「なぬっ!」

 他の不良が声を出した。

「さらに『ビー・バップ・ハイスクール』『ろくでなしBLUES 』『クローズ』『クローバー』『湘南純愛組!』『今日から俺は!!』『ヤンキー烈風隊』ですか。『エンジェル伝説』もあるとは、みなさん何気に、読書の幅が広いですね。もしかして、部屋の奥の本棚には、他にもいろいろなマンガが入ってますか?」
「て、てめえ。できるな」

 不良の一人が、うめくようにして声を出す。
 よし、食いついてきた! 僕は、得意げなポーズを取り、熱く語り始める。

「当然です。僕は文芸部です。古今の本に通じています。その中には、マンガも当然含まれています。みなさんは、もっと多くのマンガを読みたいとは思いませんか? 何だったら、アニメやゲームも提供することができますよ。僕は、膨大なライブラリーを持っていますから」
「ご、ごくり」

 不良たちが、喉を鳴らす音が聞こえた。よし、上手くいったぞ! 僕は、鷹子さんとの付き合いを通して、実は不良と呼ばれる人の少なからぬ数が、マンガやアニメを好きなことを知っている。
 そういった趣味嗜好を持っているのならば、鷹子さん相手に磨いてきた駆け引きが、使えるというものだ。

「フィストのサカキ。お前、生徒会長に立候補するぐらいだから、真面目人間じゃねえのか?」
「僕がですか? そんな人間が、なぜ花園中の女番長と呼ばれる鷹子さんとつるんでいるのですか。僕はこちら側の人間ですよ」

 相手の共感を得るために、適当に話を合わせる。

「て、てめえ。いったい、吉崎鷹子と、どんな絆で結ばれているんだ?」
「ふっ、教えてあげましょ。それは、エロゲ……ぎゃふん!」

 僕の頭に、鷹子さんの鋭い鉄拳が落ちてきた。僕は床を突き破り、顔面を板の下に沈める。その顔を引っこ抜いて、猛然と鷹子さんに抗議した。

「鷹子さん。そんな、ぽんぽん殴らないでくださいよ!」
「てめえが、言わなくてもいいことを、言おうとしたからだ!!!」

「だって、本当のことでしょう!」
「私は、そんなもの知らん! サカキが勝手に、私のカバンに放り込んでいるだけだろう!!」

「でも、遊んでいるんですよね?」
「ぐっ」

 鷹子さんは、悔しそうな顔をする。

「鷹子さんは、僕が貸した作品を、きちんと全部プレイしているじゃないですか」
「ぐっ、ぐぐっ」

 鷹子さんは、他人の視線を気にしながら、僕から距離を取る。

「おいっ、すげえぜ。あの吉崎鷹子を、やり込めているぞ」
「それに、プレイとか言っているぞ。あいつら、どんなプレイをしているんだ?」
「フィストのサカキ。恐るべしだな」
「それに、あいつ、マンガに詳しいみたいだぜ」
「それも、ヤンキーマンガが分かる男のようだ」
「敵じゃなさそうだな」
「ああ。あいつが生徒会長になれば、俺たちも胸を張って、ヤンキーマンガが読める」
「俺たちの時代が来るわけか!」
「ヒャッハー!」

 何やら、不良たちの間で、話がまとまったようだ。

「おいっ、フィストのサカキ!」
「はい。何でしょうか?」

「俺たちは、お前の選挙活動を手伝ってやる。ありがたく思えよ」
「ありがとうございます。具体的には、どういったことをしてくれるのでしょうか?」

「お前に投票するように、他の生徒たちに命じるんだよ」
「てめえら、サカキに投票しやがれ! と声をかけるわけだ」
「俺たちは、フィストのサカキの、私設応援団というわけだ!」
「よし、選挙戦、がんばるぞ!」
「おーっ! おーっ! おーっ!」

 不良たちは、目に炎を浮かべながら、天井へと拳を突き上げた。
 ……あの、それは、逆効果ではありませんか? みんな逃げていくのではないでしょうか? 僕は、お先真っ暗という気分になった。

「よかったな、サカキ!」

 鷹子さんが、勢いよく僕の背中を叩いた。僕は涙目で頷いた。
 こうして今日、僕の選挙を応援してくれる仲間が増えた。僕は不良ではないのに、僕の支持基盤は、なぜか学校の不良たちになったのである。
 駄目だ。どうしてこうなった。僕は、自分の運命を嘆いた。

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