雲居 残月 の 小説道場

主に「小説家になろう」で書いた話を中心に、小説投稿をおこなっていきます。

第28話「波刈神社 その2」-『竜と、部活と、霊の騎士』第5章 決闘

f:id:kumoi_zangetu:20140727130249p:plain

◇大道寺万丈◇

 珍しく深夜に、シキから電話がかかってきた。内容は、危機を知らせるものだった。PCルームで電話を切った俺は、タブレット端末でブラウザを表示して、シキのメールアドレスとパスワードでログインする。画面を操作して、端末の現在位置を呼び出す。シキのスマートフォンがある場所が、GPSのデータを元にして、マップ上に表示される。

「波刈神社の方に向かっているのか」

 俺は、パソコンのマウスを動かして、母屋にいる執事を画面に呼び出す。

「何でしょうか、坊ちゃん。夜食をご所望でしょうか?」
「車を出して欲しい」
「コンビニにでも、行きたいのですか?」
「シキが暴漢に襲われて逃げている。GPSで場所を確認したから、助けに行く」

 執事の表情が変わった。顔に緊張が浮かび、目付きが鋭くなる。

「分かりました。すぐに出します。武器は、スタンガン辺りを適当に見繕って、離れの入り口に、車を付けます」
「分かった。そこで合流だ」

 俺は、通話を終え、スマートフォンタブレットを持って、PCルームを飛び出した。本当は、用心棒的な人間を、連れて行きたいところだが、それは無理だ。うちの家は、住み込みの下男などという者はいない。執事とその妻が、離れで暮らしているだけだ。
 俺は胸に手を当てて、首から提げた霊珠を服の上から触る。昨晩、3Dプリンターで台座を出力して首飾りにした。俺の能力は、戦いに使えるものではないが、シキの居場所を探すのには、役立ってくれるだろう。

 玄関で靴を履き、外に出る。ほぼ同じタイミングでベンツが横付けされて、俺は後部座席に乗り込んだ。そこにはスタンガンや、催涙スプレーが転がっている。

「坊ちゃん、波刈神社でよろしいですか」
「急いで出してくれ。俺は着くまでの間、電話をする」

 表の門は、すでに遠隔操作で開いている。車は急発進して、夜の道路に躍り出た。俺は、スマートフォンのアドレス帳を見て、舌打ちする。部長や副部長、佐々波先生の連絡先が分からない。どうにかして、聞き出しておけばよかったと後悔する。
 どうやって連絡を付けるか。どの順番で、戦力を増強するか。波刈神社までの距離を考えて、一件目の電話をかける。

「アキラか」
「何よDB。こんな夜遅く。何の用なの?」

 半分寝ぼけた声が返ってくる。小学校時代から知り合いだし、シキとともにつるんでいるから、連絡先は分かる。実力は今一つだが、すぐに呼び出せるというメリットがある。

「シキが針丸姉妹に襲われて、波刈神社に向けて逃げている。俺は今、車で急行している。アキラも急いで救援に向かえ」

 一瞬間があり、真面目な声で返事がある。

「分かった。弟の金属バットを持って、自転車で向かう」
「部長とか先生とかの連絡先は知っているか?」
「聞いてないわ」
「そうか。アキラは貴重な戦力だ。波刈神社で合流するぞ」

 電話を切り、わずかな時間考える。次の連絡先を呼び出す。普段、積極的には電話をかけない相手だ。

「はい。大道寺善道です」

 親父が出た。会社にいるのだろう。俺はいきなり用件を切り出す。

「親父、朱鷺村の本家の、電話番号を知っているか?」

 八布里島で、最も大きな二つの家だ。普段交流がないとはいえ、互いの連絡先を知っていても、おかしくはない。もし聞き出すことができれば、部長に連絡が取れる。同じ屋根の下には、副部長もいる。すぐに動き出すことができるはずだ。

「知っているが、何のために必要なんだ?」

 親父の声は素っ気ない。夜遅くに、子供が他家の電話番号を聞いてくる。教えれば、その番号をすぐに使うことは、予想が付く。大人としては、簡単に口にするわけには、いかないだろう。
 どうすれば、親父のガードを突破できるか。親父は、竜神神社や、八布里島の霊的闘争について、把握しているだろうか。いや、親父は科学の信奉者だ。オカルト的な話は、宗教も含めて一切信じない。その手の話を、本気で聞くとは思えない。

「高校になって、部活に入った。その部長が、朱鷺村本家の娘、朱鷺村神流だった。一緒に入部したシキが、部活の件でトラブルに巻き込まれた。部長に相談して、指示を仰ぎたい」
「それは、この時間に確認しないといけないことなのか?」
「今すぐ必要だ。俺自身も現場に向かっている」

 数秒、間があったあと、声が返ってきた。

「メモの用意はいいか?」
「ああ」

 ポケットからメモ用紙を出して書き込む。礼を言って通話を終え、今度はその番号を入力した。

「はい、朱鷺村です」

 男の声が出る。家人ではなく、使用人だろう。俺は自分が、朱鷺村神流が部長をしている竜神部の後輩だと告げる。そして、連絡を取りたいと話す。

「お嬢様は、もうご就寝されています」

 さすがにガードが堅い。金持ちの娘だし、あれだけの美人だ。電話番号を調べて、一方的にかけてくる人間はいくらでもいるだろう。

「竜神部の活動で、緊急を要する問題です。波刈神社の辺りで、新入部員の一人が襲撃を受けました。至急取り次いでください」

 使用人は、朝になったら伝えると言って譲らない。それでは駄目だ。俺は、電話相手の名前を聞く。そして、怪我人や死人が出た場合は、すべてお前の責任だと脅す。さらに、親父の名前も借りて、徹底的に潰すと脅迫する。虎の威を借るのは好きではないが、ここは大人になって、使える手札は全部使う。また、途中で通話を拒絶された時のために、こちらの番号を告げて、メモも取らせる。そうやって、考えられる手を一つ一つ打つ。

「分かりました。いちおう確認しておきます」

 そう返事があって、電話が切られた。くそっ、本当に伝えてくれるか分からない。そのまま黙殺される可能性もある。窓の外に、波刈山の入り口の、石造の鳥居が見えた。波刈神社まではあと少しだ。俺は、運転席の執事に、このあとの指示を出す。

「俺は、境内でシキを探す。護身グッズを持って行けば、俺みたいなボンクラでも、少しは役に立つだろう。セバスチャンは、朱鷺村神流に何とかして連絡を取り、今の状況を伝えてくれ。親父を動かしてもいい」
「分かりました坊ちゃん。あと、私はセバスチャンではなく、田中でございます」
「いいんだよ、セバスチャンで!」

 俺は、スタンガンを持ち、催涙スプレーをポケットに突っ込み、怒鳴った。

 車が、波刈神社の参道の入り口に着いた。タブレットを確認して、シキの端末の場所を確かめる。画面に何も表示されていない。電波の届かない場所に入ったか、端末が壊れたかのどちらかだ。
 俺は、履歴を呼び出して、最後に位置が取れた地点を調べる。波刈神社だ。細かな場所までは分からないが、そこで行方が途絶えている。

 敵と鉢合わせしないように、シキを探さないといけない。俺は、境内に足を踏み入れ、足下がすべて砂利であることに気付き、苦々しく思う。足音を完全に消すことはできない。敵の耳に入れば、救援が来たことが、ばれてしまう。いや、車が来たことで、すでに露見している可能性もある。慎重に周囲を探りながら、探索していく必要がある。
 俺は精神を集中させる。霊珠の力を使い、手に写真を浮かび上がらせる。シキが、今どこにいるかを確認しようとして、舌打ちをする。真っ暗だ。どこか屋内にでもいるのだろう。あるいは暗がりに潜んでいるのかもしれない。

 仕方がない。可能性を一つずつ潰していくしかない。境内を見渡して、シキの姿がないことを確かめたあと、朱塗りの柵に身を寄せ、崖の下に目を凝らした。月明かりが、波の上で踊っている。その手前には、闇に覆われた岩場が見える。何かが動いている。半透明の姿をした人間が、ふらつきながら歩いている。
 何だ? 状況が分からず注視する。目が慣れてきた。ラメの服に、白黒の化粧。その顔には、ガラスの破片がいくつか刺さっている。背筋が冷たくなる。針丸姉妹の片割れ。その幽霊だ。よく見ると、岩場に死体が転がっている。

「痛いよう。痛いよう」

 海風に乗って、声が届いてくる。幽霊が顔を上げた。俺と目が合った。相手が、獲物を見つけた顔で、にたりと笑った。俺は大急ぎで身を引き、柵から離れた。
 額からは、汗が噴き出している。いったい、ここで何が起きているんだ。すでに死人が、出ているというのか。心臓が、早鐘のように鳴っている。俺は、必死に心を落ち着け、今後の方針を立てようとする。

 自転車のブレーキの音が聞こえた。振り返ると、波刈神社の入り口に、ママチャリが停まっていた。パジャマに運動靴。手には金属バット。アキラは、自転車から離れ、俺の許に駆けてきた。

「シキは?」
「どこにいるか分からない」
「あんたの写真の能力で、調べられないの?」
「もうやった。どこか、暗がりにいるらしい。それよりも、お前、何だその格好は?」
「急いで飛び出してきたのよ。それよりも、シキを探すわよ!」
「お、おうっ!」

 そうだ、シキを探さないといけない。仲間が一人増えたことで、俺は落ち着きを取り戻す。

「まずは、手前の社務所から探すぞ」
「そうね」

 俺とアキラは、警戒しながら、建物に沿って歩き始めた。

広告を非表示にする