雲居 残月 の 小説道場

主に「小説家になろう」で書いた話を中心に、小説投稿をおこなっていきます。

第14話「第五期発足 その1」-『竜と、部活と、霊の騎士』第3章 戦間

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◇森木貴士◇

 廃ビルを出た俺たちは、学校を目指した。校門を通り、玄関を抜けて、第二校舎に移動する。部室までずっとアキラを背負い、俺はさすがに疲労を感じた。

「アキラ大丈夫か?」
「ちょっと気分が悪いけど、だいぶましになってきた」
「椅子に座れるか」
「うん。ありがとう」

 雪子先輩が、机の周りに、木の椅子を並べる。俺は、その一つに、アキラを腰かけさせた。アキラの表情はまだ硬く、顔色は悪い。この短時間では、霊体に受けた傷は、癒えないのだろう。
 俺たちは、それぞれ席に着いた。顧問の佐々波先生は、雪子先輩が呼びに行った。雪子先輩が戻ってくるまでの間、俺たちは待つことになった。
 朱鷺村先輩は、椅子に座ったまま無言で腕を組んでいる。朱鷺村先輩は、どこか近寄り難い雰囲気を持っている。その朱鷺村先輩がこういった格好をすると、非常に声をかけ辛くなる。誰もしゃべらず、時間が過ぎる。せめて、明るくほんわかとした雪子先輩がいればなあと思う。

 十分ほど経ったところで扉が開いた。雪子先輩が入ってきたあとに、背の低い、幼い感じの女性教師が入ってきた。黒縁眼鏡にポニーテール。ぴしっとしたスーツを着ているが、どことなくぼんやりとしている。年齢は二十代半ばから後半ぐらいだろうか。しかし、その雰囲気は、学生と言われても、そのまま通りそうだ。
 佐々波先生は、ぎくしゃくとした動きで、部屋をぐるぐると回る。どこに座ればよいのだろうかと考えあぐねているようだ。雪子先輩が、壁際から椅子を出して、上座に置いた。

「佐々波先生。どうぞここにお座りください」
「ありがとう。アイゼンハワーさん」

 声がわずかに裏返っている。どうやら緊張しているようだ。席に着いた佐々波先生は、左右に座る朱鷺村先輩と雪子先輩に声をかけた。

「どうしたの。すごいじゃない。新入部員三人って、どういうこと? こんなに大量に来るなんて思っていなかったわ。この部室じゃ手狭じゃない? でも、新しい部室は用意できないのよね。ところでさあ、昨日はどうだったの? 港の白墨が消えていたから行ってもらったけど。
 えっ、何? 新入部員の相手をしろって。えっ、うわっ、緊張するじゃない。自己紹介からしろって。あー、うー、するの?」

 佐々波先生は、小声でまくし立てたあと、緊張した様子で姿勢を正して、俺たちに顔を向けた。眼鏡の下の目は、落ち着きなく動いている。頬は赤くなり、恥じらっているのが分かる。どうやら、人前で話すのが苦手なようだ。そういった性格で、よく先生をやっているなと思う。
 佐々波先生は、先ほどとは違い、自信がなさそうにしゃべり始めた。

「佐々波珊瑚です。この学校で数学を教えています。年齢は二十九歳です。独身です。出身は八布里島で、高校はこの御崎高校を出ています。だから、あなたたちの先輩でもあるわけです。趣味は数学と、パズルを解くことです。この竜神部の顧問をしています。竜神部の創設者になります。というわけで、不束者ですが、よろしくお願いします」

 佐々波先生は、たどたどしく言ったあと、ちょこんと頭を下げた。そして、恐る恐るといった様子で、顔を上げて、俺たちの様子を窺った。横に座っている雪子先輩が、場を取り仕切るようにして声を出す。

「じゃあ、新入部員の三人は、佐々波先生のために自己紹介をしてね」

 部長の朱鷺村先輩は、腕を組んだまま無言で座っている。俺は、DBとアキラと、顔を見合わせる。誰から話すか小声で相談して、俺からということになった。

「森木貴士です。友達からは、シキと呼ばれています。趣味は、フィギュア作りです」
「大道寺万丈です。友人からは、DBと呼ばれています。趣味は、コンピュータいじりです」
「鏑木秋良です。みんなからは、アキラって呼ばれています。空手を習っています」

 俺たちが自己紹介したあと、雪子先輩が、俺たちに掌を向けながら、言葉を添えた。

「シキ君は、霊珠で騎士の全身鎧と槍を発動させました。
 DB君は、盗撮ができます。
 アキラちゃんは、両拳を覆う鉄拳を具現化させました」
「ちょっと待った、副部長! 俺だけ、悪意たっぷりじゃないですか!」

 DBが憤慨して抗議する。その様子を見て、佐々波先生はびびっている。雪子先輩は、DBの反応を見て、楽しんでいるように、柔らかな笑みを浮かべた。もしかして、雪子先輩は、サディスティックな性格の人なのか。いやいや、外見や態度を見る限り、優しげな人柄にしか見えない。俺は判断に迷った。
 まあ、それは、今は脇に置いておこう。それよりも大切なことがある。俺は、早くこの部活のことや、五年前の事件との関係を聞きたかったので口を開く。

「佐々波先生。この竜神部について、そして、五年前の事件との関係について教えてください」

 佐々波先生は、しばらく俺の顔を眺めたあと、「分かったわ」と声を出した。

「ねえ、朱鷺村さん。どこから話せばよいと思う?」
「末代の話はするのですか?」
「あの方の話は、直接会いに行った時にした方がよいと思うの」
「それじゃあ、七年前の話からがよいのではないですか?」
「そうね。そうしましょう」
「あの、末代というのは?」

 俺は疑問に思ったので尋ねる。字義の通りなら、何かの家系の、最後の人という意味になる。

「龍之宮玲子さんのことよ。竜神神社末代だから、私たちは末代と呼んでいるわ。この方には、週末に会いに行く予定です。そこで、詳しい話を聞けばいいわ。歴史的背景なんかを教えてくれると思うから。だから、それ以外の最近起きたことを、私は話すわね。
 説明は七年前から。私自身が、関係し始めたのも、その頃になるから。そこから話を進めるってことで、いいかしら?」
「分かりました。話してください」

 俺が答えると、佐々波先生は、嬉しそうににっこりと笑い、両手を膝の上に置いて、背筋を伸ばして、しゃべり始めた。

「七年前、この学校に二人の新任教師がやって来た。それが事の発端だった。赴任してきた二人は、大学を出たばかりの新米教師だった。一人は数学教師の私。もう一人は凪野弥生という国語教師。私と弥生は、高校時代の同級生で、この島を出て、大学を卒業して、この島に戻ってきたの。
 私たちが着任して少し経った頃に、末代が学校にやって来た。竜神神社というのは、この八布里島を霊的に守っていた神社なの。高齢の末代には子供がいなかった。親戚もいなかった。そのため、その血統が途絶えてしまったの。だから、後継者がいなくて、末代は困っていた。
 養子を取るなりして維持するにしても、個人の家では、いつまた同じようなことが起きるか分からない。だから、公的な組織の中に、その事業を託せないかと考え、校長先生に相談にきたの。学校だったら、いきなり潰れることもないし、後継者となりうる人材は、必ず補充され続けるわけだから。

 そこで白羽の矢が立ったのが、島の出身者で、教師の中で最も若かった、私と弥生だったの。私たちには五十個の霊珠と、偽剣と呼ばれる霊的な剣が一振り渡された。それらは、学校の金庫に保管されることになった。
 また、偽剣は全部で八本あり、残り七本はこの島の各所に隠されていると教わった。八布里島の名前の由来が、この八本の偽剣にあるということも説明してくれたわ。そして、後継者に指名された私と弥生は、霊珠によって、それぞれの能力を発動させたの。

 竜神神社の役割は、この島を霊的に守ることと言ったけど、具体的には二つの仕事があったわ。一つは、戦国時代にこの島にやって来た七人の武者と、その配下の怨霊を封じ続けること。もう一つは、この島の霊的価値を求めてやって来る、外部の人間を退けること。
 とはいえ、仕事はほとんどなかったわ。外部からは誰も来なかったし、戦国時代の怨霊は、末代が様々な手を講じて、対策をしていたから。これは、それほど難しい仕事ではなさそうだ。私はそう思った。

 そして一年が経った時、予想していなかったことが起きたの。弥生が、五十個の霊珠と偽剣を持って、島を出たの。私は慌てて、末代に相談に行ったわ。
 末代は、いくつか重要な情報を教えてくれた。奪われた霊珠は、全体の半分ほどで、残りは龍之宮家の倉庫にあること。この霊珠は、末代が死んだら、学校に寄贈する予定だったこと。また、七本の偽剣の場所も、遺書として学校の後継者に託すつもりだったこと。
 それが六年前の出来事よ。そしてその翌年、島に大惨事が起きることになった。あなたたちも知っている、七人の殺人鬼事件よ」

 佐々波先生は、硬い表情で告げた。俺は緊張する。母さんが死んで、姉さんが行方不明になった事件だ。今からその背景を知ることができる。知ったからと言って、何かが変わるわけではない。しかし、これまで謎だったことが分かれば、何か新しい展開があるかもしれない。母さんがどのように死んだのか。行方不明になった姉さんが、その後どうなったのか。そういったことを知ることができるかもしれない。
 俺は、佐々波先生の言葉を聞き逃すまいとする。佐々波先生は、俺の眼差しを感じ取ったのか、ちらりとこちらを見た。そして真剣な表情で、続きを話し始めた。

「島から姿を消した弥生は、大学の近くに戻り、竜神教団という宗教団体を立ち上げたの。彼女は大学時代、心理学の研究をしていた。その研究室の教授が、犯罪者の更生活動をおこなっていたそうで、弥生自身も多くの犯罪者と接見して、面識を持っていた。教団には、そういった元犯罪者が何人かいるそうよ。そこまでは、調べて分かったわ。

 五年前のあの事件の日、弥生は偽剣を携えて、この島を訪れようとしていた。船で港の近くまで来たけど、私が港で待ち構えていたせいで目的を果たせなかった。でも、彼女が送り込んだと思われる七人の犯罪者は、違う場所から島に上陸した。
 彼らは、通常のルートとは違う方法で、八布里島にやって来た。ある者は水上バイクで、ある者は漁船で、ある者はセスナ機で島に上がり込んだ。そして、島民の殺害を始めたの。あとで考えれば、弥生自身が囮になり、彼らの存在から目を逸らさせたのかもしれないわね。

 七人の殺人鬼は、教団には入っていなかった。それにも関わらず、弥生が派遣したと私が判断した理由は二つある。一つ目は、弥生がその日、この島に上陸しようとしていたこと。二つ目は、七人の殺人鬼が取った行動よ。
 彼らは、次々と島民を殺していくことで、生贄を捧げて、戦国時代の死霊を蘇らせていった。殺人鬼たちは、そうやって死霊の動きを確認しながら、七人の武者がどこにいるのかを探し出そうとした。
 伝説では、七人の武者は、七本の偽剣の近くで殺されて、怨霊になったそうなの。その七人は、偽剣の力と同調することで強い力を持つことになった。だから七人の武者を復活させれば、偽剣の隠し場所が分かる。そういった算段だったのだと思う。
 そのようなからくりを、島外の人間が考えるとは思えない。だから、七人の殺人鬼は、弥生の手の者だと、私は推測した。

 その七人の殺人鬼が動き始めたあと、八布里島の中で、何人かが活動を開始した。竜神神社の存在を知っていて、その霊的な役割を把握している人たちよ。その人たちは、最悪の事態を防ぐために、殺人鬼を止めようとしたの。
 七人の殺人鬼は、最後に全員自殺した。それは、そうすることで、自らを生贄に捧げ、七人の武者を復活させようとしたのだと思う。さらに言うならば、復活した武者と同化しようとしたのでしょう。そして、偽剣を手に入れようとした。
 しかし、その行為は実を結ばなかった。七人の殺人鬼は、目的を達成することなく事態は収束した。これが、五年前の事件の真相よ」

 佐々波先生は、長い台詞を言い終え、一呼吸した。
 島の人間の中で、この島の霊的な仕組みを知っている者が、七人の殺人鬼を止めるために奔走した。もし、その話が正しいのならば、母さんと姉さんは、そのために家を出て、現場に向かったことになる。俺の知らないところで、さっきの廃ビルでの戦いのようなことが、起きていたのだろうか。
 佐々波先生は、さらに話を続ける。

「事件の一年後、今から四年前に、私はこの学校で竜神部を発足させた。末代が倉庫に残していた霊珠を、十個ほど借りてきて、部室の倉庫に収め、才能のある生徒を育成する活動を始めたの。
 弥生はまた体勢を立て直して、この島に攻めてくるかもしれない。私と末代だけでそれを防ぐのは難しい。この島を守る、この島の人間を育てていかなければならない。だから、適合者を探して、この部活に入部させるようにしたの。

 とはいえ、やる気がある子でなければ駄目だから、なかなか難しかったわ。その問題を解決するために、なるべく早く初陣を経験させて、それでも続ける気がある子を、部員として採用してきたの。
 去年の四期目は、豊作だったわ。朱鷺村さんにアイゼンハワーさんという、実力もやる気もある子が、二人も入部したから。今年はさらに三人もいる。全員が入部すれば、五期目の竜神部は、これまでで、最も多い人数ということになるわ。森木君、大道寺君、鏑木さん、入部してくれるわよね」

 佐々波先生は、期待の眼差しで俺たちを見る。

 俺は、母さんと姉さんのことを考える。二人は、この島を守るために戦ったのだろうか。もしそうならば、俺も同じように戦いたい。それに、あの日、母さんがどのようにして死んだのか、姉さんがなぜ行方不明になったのかも知りたかった。

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