雲居 残月 の 小説道場

主に「小説家になろう」で書いた話を中心に、小説投稿をおこなっていきます。

第13話「針丸姉妹 その4」-『竜と、部活と、霊の騎士』第2章 初戦

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◇森木貴士◇

 早く助けを呼ばなければ。俺は、呼吸を激しく乱しながら、廃ビルの一階を進んでいく。二階ではアキラが倒れ、DBが一人で時間稼ぎをしている。そのDBには、戦う能力はない。俺は必死に足を動かして、出口に向かう。

 俺は走りながら考える。DBは、能力を敵に明かすなと言った。しかし、その敵は、自分の能力のヒントになる、針丸姉妹という名前を声高に告げた。針丸というのはおそらく偽名だろう。もしそうならば、なぜそういった、能力のヒントになるような名前を告げたのか。俺は、その理由を推測しようとする。
 俺たちに聞かせたかったから。そう考えるのが自然ではないか。DBは、敵に能力を知られることの不利をいさめたが、有利になることもあるのではないか。

 高位の霊は、幻術を使う。朱鷺村先輩が説明してくれたことを、俺は思い出す。霊による攻撃が幻術のようなものならば、相手に強く認識させた方が、その効果は増すのかもしれない。
 手品で、視線や注意を誘導するのと同じだ。だから相手に、能力の入った名前を告げる。そうすることで、無意識下に攻撃方法を刷り込んで、相手を術にかかりやすくする。そういった効果があるのではないか。

 喉の痛みと、移動で呼吸が辛くなってきた。俺は、思考を打ち切り、足を動かすことに専念する。視界が霞んでいる。屋内の暗がりの中に、外へと続く四角い切れ目が見える。その四角が近付いてくる。正面玄関だ。俺はその間を抜け、屋外へと躍り出た。
 青空の下。光で一瞬目がくらむ。目の前には、朱鷺村先輩と、雪子先輩が立っている。俺はそこに向かい、喉から声を絞り出した。

「霊珠を持った人間二人に、襲われました。アキラが倒れ、DBが時間稼ぎをしています」

 これだけで伝わるか。二人はきょとんとしている。駄目だ。もっと詳しく話さなければ通じない。そう思い、さらに言葉を続ける。

「針です。小さな針を散布してきて、喉をやられました。敵は大きな針も使い、アキラはそれで貫かれました」

 もどかしい。どうやら二人は、この廃ビルに、戦国時代の死霊以外がいることを、想定していないようだ。
 その時、建物の二階から、怪鳥の叫びのような、女性の悲鳴が聞こえた。針丸姉妹の声だろう。DBが何をしたのか分からないが、感情を激しく高ぶらせることをしたのだろう。

「カンナちゃん。二階へ」
「分かった」

 雪子先輩の声で、朱鷺村先輩は建物に飛び込む。そして、一階の通路を走り、階段へと向かう。理解してくれた。俺は安堵する。この建物に、俺たち以外の何者かがいることが、ようやく伝わったようだ。
 指示を出した雪子先輩自身は、手に銃を出現させて、虚空へと四発の銃弾を放った。雪子先輩の撃ち出した弾丸は、光跡を残しながら、鋭角に曲がって二階の窓に吸い込まれる。

「シキ君、大丈夫?」

 視線をちらりと向けて、雪子先輩は尋ねてくる。

「喉がやられていますけど、それ以外は」
「私は、カンナちゃんの支援に向かうわね」

 雪子先輩は短く告げて、建物内に駆け込んだ。俺はどうするべきか考える。選択肢は三つあるだろう。

 ここから逃げ出す。
 ここに留まり、結果だけを聞く。
 戦いの場に赴く。

 検討するまでもないだろう。DBとアキラが待っている。俺は喉の痛みに耐えながら、再び建物内に足を踏み入れた。
 朱鷺村先輩が、階段を駆け上るのが見えた。その後ろを、雪子先輩は銃を構えて、壁に身を隠しながら移動する。俺は、二人のあとを追う。朱鷺村先輩が二階に消え、何か話し始めた。
 雪子先輩が階段の影に身を潜めて、ポケットから鏡を出した。自分の体をさらさないようにして、戦いの現場を確認している。俺は、ふらつく足で雪子先輩の後ろに立ち、小声で状況を尋ねた。

「DB君は無事。アキラちゃんは、肉体と霊体が切り離されて階段に転がっている。敵は二名。ハリネズミのように、針で体を覆い、両手に長大な針を持っている」
朱鷺村先輩一人で、二人を相手するんですか? 大丈夫なんですか?」
「一人じゃないわ。私もいるわ。それよりも確認したいことがあるの。敵は、二人だけなの? それ以外は、いないの?」

 雪子先輩の質問に、俺は言葉を詰まらせる。俺が見た敵の数は二名だが、それ以外がいないとは言い切れない。三階に他の人間がいるかまでは分からない。雪子先輩が姿をさらさないのは、そういった敵に一網打尽にされることを警戒しているからだ。
 二階にいるDBと目が合った。俺たちの姿は、敵からは見えないが、相対しているDBからは見える。DBは、朱鷺村先輩と針丸姉妹の姿を確認したあと、荒い息を吐きながら階段までやって来た。

「何だよ、シキ。ずいぶん早かったじゃねえか」

 DBは汗みどろの顔で、笑みを見せる。疲弊しているのが分かった。戦闘に使えない能力で、よく時間稼ぎをしたものだと感心する。

「どうしたんだ。部長と副部長で、一気に逆転するんじゃねえのか?」

 俺たちが隠れていることを訝り、DBが尋ねてくる。

「雪子先輩は、伏兵を警戒している。三階は、俺たちの誰も確認していない」

 精神を集中させている雪子先輩の代わりに、俺が答える。DBは、すぐにその意味を悟ったようだ。

「三階の状況が分かればいいんだな」

 DBが右手を出して、精神を集中した。写真が出現する。三階の階段から、魚眼レンズで撮影したような光景が現れる。
 アキラにしろ、DBにしろ、よくこの喉の痛みの中で、能力を発現できるなと感心する。あるいは、具現化する品物のサイズによって、必要な精神集中の強さが違うのかもしれない。アキラの鉄拳や、DBの写真は、俺の霊の騎士に比べて、遥かに小さい。
 俺は、DBが出した写真を見る。その中には、人間は誰もいない。戦国時代の死霊の残骸が転がっているだけだ。雪子先輩は、DBの手の中のものを一瞥する。そして、微かに笑みを浮かべた。

「伏兵はいないようね。私の方の準備も完了したわ」

 雪子先輩の左手には、拳銃の弾倉が現れていた。俺はそのことで気付く。雪子先輩の銃は、無限に撃てるわけではないのだ。精神を集中して、替えの弾倉を顕現させる必要がある。
 飛び道具は、相手に放った武器が戻ってこない。DBと話していたような、霊量保存の法則があるのならば、自分の霊体を削って弾丸を撃ち込むことになる。何発撃てる銃かは知らないが、先ほど四発使っている。替えの弾倉が必要な相手と判断しての、精神集中だったのだろう。

「カンナちゃん。いいわよ」
「よし」

 朱鷺村先輩が床を蹴り、駆け出す。雪子先輩が、二階に胸から上を出した。戦いの様子を確認するために、俺も顔だけ出して、二階の様子を窺う。
 針丸姉妹が体をよじり、微細な針を空中に散布する。朱鷺村先輩は、手を顔の前にかざす。敵の能力を事前に聞いた朱鷺村先輩は、手で防ぐだけでなく、息も止めているはずだ。走る速度を上げて、一気に針丸姉妹まで肉薄した。

 白地に黒のメイクで覆われた顔が、ぎょっとする。しかし、すぐにその表情は好戦的なものに変わる。針丸姉妹は、両手に持った長大な針を、朱鷺村先輩に突き出す。
 霊の世界と重なった現実の世界が、ちらりと見えた。両手の針の一方は、中に特殊警棒が入っている。虚実入り乱れた攻撃。いわば幻術だ。霊の世界の攻撃を受け止めれば、骨を砕く一撃を食らってしまう。

 朱鷺村先輩が危ない。そう思った刹那、すぐ横で銃声が立て続けに響いた。針丸姉妹の各々の胴体に二発ずつ、光の輝線が襲いかかる。しかし、四発の銃弾は本体に届かず、体を覆う針と衝突して、互いに砕け散った。雪子先輩の銃は、射程距離はともかく、威力はさほどではないのだろう。
 雪子先輩は、流れる動作で弾倉を入れ替える。そしてさらに四発の銃弾を放った。今度の目標は、針丸姉妹が両手に持っている長大な針だった。銃弾を受けた針が、弾丸とともに四散する。霊の姿で覆われていた特殊警棒が、姿を現した。

 事態は好転していない。二対一という劣勢も変わらず、相手が物理的な武器を持っているという事実も、同じままだ。針丸姉妹が、高さの利を活かして特殊警棒を振るう。階段の上から、朱鷺村先輩の頭を叩き割る一撃が放たれる。その先端が、朱鷺村先輩の顔の前で空振りした。間合いを見切っていたのだ。朱鷺村先輩はカウンターを食らわすようにして、素早く刀を振るう。
 人の背ほどもある日本刀は、特殊警棒より遥かに長い。刀は横一文字に振り抜かれ、針丸姉妹の腹の辺りを両断した。

「「ぐうっ」」

 斬られた二人から苦悶の声が漏れる。肉体は切断されていないが霊体が切断されている。俺の喉の痛みが消えた。精神集中が乱れて、針丸姉妹の針が霧散したのだ。
 よし、捕らえることができる。俺は、針丸姉妹を捕まえるために、二階に飛び出した。

「あっ」

 俺は、思わず声を上げる。針丸姉妹が、苦痛で顔を歪めたまま走り出し、窓から飛び降りたのだ。俺は慌てて窓に駆け寄る。建物から離れた道路の脇に、バイクが一台あった。二人はそのバイクに乗り、一気に採石場から離れていった。
 取り逃がした。俺は、指示を仰ごうとして、朱鷺村先輩のいる場所に、体を向ける。朱鷺村先輩は、階段の上に転がっているアキラの傍らに膝を突き、霊体を肉体に戻していた。そういえば、アキラが危険なことになっていた。大丈夫だろうかと思い、俺は慌てて駆け寄る。

「アキラは元に戻るんですか?」
「死ぬようなことはない。数日、痛みと体のだるさは続くだろうがな」

 俺は安心する。DBや、雪子先輩も近くにやって来た。しばらくすると、アキラが目を覚ました。

「うう」

 苦しそうな顔をしている。だいぶ辛そうだ。

「大丈夫か?」
「ねえ、シキ。何があったの? あの変な奴らに殴りかかったあと、覚えていないんだけど」

 俺は、安堵の息を吐く。倒れていた間の記憶はないみたいだが、それ以外は問題なさそうだ。

「シキ君。アキラ君を背負えるか?」

 朱鷺村先輩が尋ねてきた。

「ええ」
「いったん部室まで戻ろう。先ほどの奴らが、仲間を率いて戻ってくる可能性もある」

 俺は緊張する。あまり考えたくない展開だ。しかし、仲間がいるのならば、そういったことも考えられる。

「あいつらは、いったい何者なんですか?」
「おそらく、竜神教団の手の者だ。まさか、いきなり遭遇するとは思っていなかった。今日の初陣が終わったら、説明するつもりだったのだが」
「竜神教団? 竜神部と何か関係があるのですか?」
「関係ある。そのことも含めて、部室で話そう。顧問の佐々波先生が教えてくれるはずだ」

 朱鷺村先輩は、俺にアキラを背負うように指示を出す。すべての説明は、部室に戻ってからということだろう。俺はアキラの体を背に乗せる。俺たちは廃ビルを出て、再び学校へと向かい始めた。

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