雲居 残月 の 小説道場

主に「小説家になろう」で書いた話を中心に、小説投稿をおこなっていきます。

第12話「針丸姉妹 その3」-『竜と、部活と、霊の騎士』第2章 初戦

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◇大道寺万丈◇

 シキが部長たちを連れてくるまで、何とか時間を稼がないといけない。廃ビルの二階に俺はいる。目の前には、派手な桃色の服に、悪魔のような白黒のメイクをした二人の少女、針丸姉妹がいる。俺は、自分の右手に持った写真を眺めたまま、彼女たちに声をかけた。

「父親か」

 姉妹の動きが止まり、顔に困惑の表情が浮かぶ。やはり、効果があったか。俺は、可能な限り時間を稼ぐために、必死に言葉を紡ぎ出す。

「いいか、よく聞け。お前たちは、俺の友人のシキの言葉を聞き、俺が戦いにまったく活用できない能力を、霊珠で得たと判断した。そして、写真がいったい何の役に立つのかと、嘲笑いもした。だがな、それは早計だ。戦いには、いろんな種類があるんだよ。
 そこに転がっているアキラは、近接戦闘の能力を得た。それは、兵士としての戦闘能力だ。前線に出て、相手と正面から当たり、殴り合う。そういったものだ。しかし、戦いは兵士のものだけではない。指揮官のものもある。

 指揮官の戦闘で、武器になるのは情報だ。敵の利点を知り、弱点を見抜き、適切な攻撃を仕掛ける。そうすることができれば、たとえ拳銃一丁でも、大軍を撃退することができる。俺が獲得した能力は、そういった情報を入手する特殊な力だ。
 俺は、この戦いの帰趨を握る情報を、写真を通して手に入れた。だから俺は、お前たちが、恐れる必要のない相手だと知っている。俺の勝利は、今や揺るぎないものになった。残念だったな。お前たちは、俺の仕掛けた罠にはまって敗北するだろう」

 長台詞をしゃべりながら、シキはまだかと、心の中で悲鳴を上げる。相手が、俺のはったりに気付き、動き始めれば終わりだ。そこで俺の手品は消えて、この勝負は敗北する。頼む、気付かないでくれ。そう願いながら、胸を張って台詞を続ける。

「なあ、針丸姉妹。小学生の頃と、今とでは、ずいぶん生活が変わったんじゃないのか? お前たちは、父親というくびきから脱したんだろう。だから、今ここにいる。そのことについて、じっくりと話し合おうじゃないか。二人が、どうやって人生を変えたのか、俺が聞いてやるよ。
 自ら語るのと、他人に暴かれるのは、大きく違うはずだ。俺は無理強いはしない。ただ話を聞くだけだ。二人の能力が、どうして発動したのか、俺は知っている。俺はその情報を持っている。
 俺の口から話した方がよいか? あんたらは、自分たちの過去を、俺が把握しているはずがないと思っている。だが、その考えは間違っている。そのことについて、徹底的に議論しようじゃないか。

 話の進行を滞りなくするために、会話は挙手のあと、おこなうことにしよう。もし、俺の話の途中で、何か言いたいことがあれば手を挙げてくれ。その合図で、俺は切りのよいところで話を切り上げ、話し手の立場を譲ることにする。
 どうだ。何か質問や、発言したいことはないか? ないかい。それならば、俺からの話を続けよう。
 何だったかな。そう、お前たちの過去だ。そのことについて、今日初めて会った俺が知っているのはおかしい。お前たちは、そう考えているはずだ。だが、そうではない。思い出したくない過去だろう。他人の口から語らせてもよいのかい? 二人が話さないのならば、俺の口から告げる。それでよいのならば、これからすべてを明らかにしよう」

 まだか。まだなのか。俺は、目の前の二人の様子を窺いながら、自信に溢れた振りをして語り続ける。
 どうやら、針丸姉妹は、単純な性格をしているらしい。俺の言葉を熱心に聞いている。だが、そろそろ持ち駒がなくなってきた。それに、生命の危機を感じながら、口から出まかせで嘘を吐き続けるのは至難の業だ。あとは、写真を見せて驚かせるぐらいしか種がない。
 どうするか。見せるか。俺は、針丸姉妹の視線を右手の写真に集めて、不敵な笑みを浮かべる。

「この写真には、何が写っていると思う?」

 質問形式にして、相手に考えさせる。少しの間、真剣な顔をしたあと、針丸姉妹が口を開いた。

「その写真には、何が写っているんだよ!」
「御託はいいから、さっさと見せやがれ!」

 もう限界だ。シキはまだなのか。仕方がない。俺は、なるべくゆっくり指を動かしながら、写真を針丸姉妹へと向けた。
 写真を見た瞬間、二人の顔が凍り付いた。白地に黒で塗られたメイクが醜く歪んだ。恐ろしいものを目撃した表情。見たくないものを見てしまった表情。

「「あああああぁぁぁぁぁっ!!!!」」

 二人の少女は、全身を弓なりに逸らして絶叫を上げた。その心の底からの叫び声に、俺は全身を貫かれる。苦痛と恐怖の入り混じった声に、体中の毛が逆立った。
 喉の痛みが薄らいだ。針丸姉妹の精神が、乱れているのだ。彼女たちを覆う針の山も透けており、アキラの霊体が階段の上に落下した。
 大きな声を出せるかもしれない。ここで一声発すれば、外にいる部長たちのところに届くかもしれない。それでなくても、針丸姉妹の絶叫は、外まで聞こえているはずだ。俺が、助けてくれと言えば、事情を察してくれるだろう。俺は窓に顔を向けて、声を絞り出す。

「たすっ――」

 突然の喉の激痛で、俺は声を中断させられる。喉の針が、再び具現化していた。それも、先ほどよりも遥かに強く、鋭い状態で。

「「許さない!」」

 姉妹の声が唱和して聞こえる。針丸姉妹の顔が、怒りで大きく歪んでいる。目が吊り上がり、口が横に裂け、獣のようになっている。その全身は、無数の鉄棒のような針で覆いつくされている。
 地雷を踏んだか。俺は、手を誤ったことに気付く。触れられたくない過去を暴いてしまった。
 針丸姉妹は、両手に一つずつ、巨大な針を槍のようにして持っている。それで俺を貫くつもりだろう。逃げなければと思う。しかし、呼吸が乱れ、足がすくみ、一歩も動けない。

 終わったな。シキが逃げきれていればよいが。俺は親友の安否を考え、充分な時間を稼げたかな、と思った。
 その直後、銃声が立て続けに響いた。窓から光の輝線が飛び込んできた。弾丸? その光跡は、鋭角に曲がり、先ほど叫び声を発した針丸姉妹へと襲いかかる。
 銃の能力。折れ曲がる弾丸。複数の光の線が、針丸姉妹の体に激突した。霊の世界で、鋭い衝突音が鳴った。針丸姉妹を囲む針が、数本折れて弾け飛んだ。

「何者だ!」
「窓の外からの攻撃だったわ!」

 階下で、コンクリートの上を走る音がした。続いて、階段を駆け上る音が、明瞭に聞こえた。俺は視線を向ける。下へと続く暗がりから、漆黒の髪をなびかせた少女が飛び出してきた。
 朱鷺村神流。竜神部の部長の、二年生だ。腰までの黒髪の美少女。島を二分する大地主である、朱鷺村家の跡取り娘。その少女が、二階の床に着地した。手には、身長ほどもある長大な日本刀が握られている。彼女はその刀を構えて、針丸姉妹の姿を、視界に入れた。

「うちの新入部員たちに、ずいぶんと手荒いことをしてくれたようだな」

 部長の目は、こちらの肝が冷えそうなほど、怒りの炎に染まっている。間に合った。どうにか時間を稼げた。俺は、役目を果たし終えたことに安堵して、全身の力を抜いた。

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