雲居 残月 の 小説道場

主に「小説家になろう」で書いた話を中心に、小説投稿をおこなっていきます。

第7話「初陣の霊戦 その2」-『竜と、部活と、霊の騎士』第2章 初戦

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◇森木貴士◇

 朱鷺村先輩と雪子先輩の先導で、俺たちは御崎高校から続く山を登っていく。
 足下は、アスファルトで舗装されている。左右は、斜面になった森に囲まれている。しばらく歩いたところで、二人の先輩は道を折れ、山道に分け入った。俺たち新入生も、そのあとに続く。
 森に入ると、周囲は薄暗くなった。土がむき出しの道は、人が一人しか通れない細さだった。道の両脇は、雑草が生い茂り、周囲は木々が並んでいる。森の中の空気は、外よりも冷たく、湿り気を帯びていた。

 おそらく近道なのだろう。獣道にしか見えない細道を、俺たちは進んでいく。舗装されていないから、少しの距離を歩くだけでも、体力を奪われる。予定外のハイキングに疲れ始めた頃、目の前の視界が開けた。
 俺たちは、崖の上に出た。緑に覆われた地面は、途切れていた。眼下には、山を削り取ったような、灰色の砂礫の光景が広がっている。採石場だ。山の一部を切り崩して、建築用の砂利を採取していたのだろう。平らになった場所には、ぽつぽつと建物の姿が認められた。

 俺は、景色を見渡して、三階建てのビルを探す。すぐに見つかった。採石場の入り口辺り、道路に面した一角に、建物が佇んでいた。あそこで、実戦をおこなうのだろう。俺は、その姿を目に焼き付けるようにして、凝視した。

「行くぞ」

 朱鷺村先輩は、崖沿いに歩き、塔状の螺旋階段のある場所に移動した。赤茶けた、サビの浮いた階段が、崖の下まで続いている。階段の入り口には、黄色と黒色のロープが張ってある。そこには、立ち入り禁止と書いたプレートが下がっている。
 螺旋階段は、見るからに頼りない。地震でもくれば、そのまま倒れてしまいそうだと思い、利用することをためらった。朱鷺村先輩は、そういったことを気にしないのか、立ち入り禁止のロープをくぐり、階段を下り始めた。雪子先輩も、そのあとに続く。

「どうしたんだ? 下りるぞ」
「大丈夫なんですか、その階段」
「まだ倒れていない。問題ないだろう」

 どうやら、危険に対する基準が、俺とは大きく違うようだ。俺たち新入生は、顔を見合わせたあと、仕方なく先輩たちに従った。俺は手すりを持ち、恐る恐る階段を踏み、下へと向かう。

 崖の下に着いた。辺りは、静まり返っていた。森の中では聞こえていた、生き物の音が、ここではまったく聞こえない。山を削り、森をはぎ取ったせいで、ここは死の世界になってしまったのかもしれない。俺は、顔を動かす。少し離れた場所に、三階建ての廃ビルがある。崖の上から見た時よりも、その荒れようはひどく感じた。
 俺は、廃ビルの様子を見渡す。窓ガラスは割れ、その破片が窓枠にわずかに残っている。窓の向こうの壁には、壁紙がなく、吹き込んだ砂と埃のせいで灰色になっている。それだけではない。わずかに残された調度品が、無残に朽ちている。それらの廃棄物が、この建物の廃墟らしさを増しているようだった。

 本当に、こんな場所に入るのか。小学生の頃なら、探検ごっこと言い、喜んで入っただろう。しかし、今の俺は高校生だ。もう、そういった年齢ではない。それに、ここには、悪霊がいるということを知らされている。好んで入りたい場所とは言い難い。
 俺の不安をよそに、先輩たちは建物へと歩いていく。俺は、DBやアキラと視線を交わし、どうしようかと迷ったあと、結局付いていくことにした。

 建物の入り口まで来た。かつては扉があっただろう場所は、ぽっかりと暗い穴になっている。奥は薄暗く、いかにも何かが出てきそうな、気配を漂わせていた。

「よし。私たち二人はここで待つ。君たちは屋内に入り、戦国時代の霊を見つけ出して、退治しろ」
「あの、本当に、やるんですか?」

 俺は、尻込みしながら尋ねる。

「何だ、怖じ気づいたのか?」

 軽蔑するような目を向けられ、ため息を吐く。

「行くか、DB?」
「仕方がないな。本当は、あまり行きたくないんだけどな」
「アキラは?」
「行くわよ。ここで引き返すのは嫌だもの」

 こういった時は、男よりも女の方が度胸が据わっているようだ。俺たちは身を寄せ合いながら、採石場の廃ビルに足を踏み入れた。
 暗がりの中、俺たちは進んでいく。建物内の空気は冷えていた。壁に囲まれているせいで、空気は動いておらず、埃っぽかった。歩いていくうちに、いつの間にか、俺が先頭になり、その斜め後ろから、DBとアキラが付いてくる形になった。

「おい、DB、アキラ。横に並んで歩こうぜ」
「いや、先頭はやはり、リーダーが行くべきだろう」
「私もそう思うわ」

「いつの間に、俺がリーダーになったんだ」
「ああ、ええと、ついさっきからだ」
「私も、シキをリーダーに推すわ」

 妙なところだけ意気投合して、DBとアキラは、俺の背中に隠れた。仕方なく俺は、二人の前を歩き、一階の部屋を一つずつ覗いていく。倉庫らしき場所、ロッカーの並んだ着替え室、シャワールームやトイレも確かめる。
 どの部屋も荒れ果てている。壁のコンクリートが傷付き、床はところどころ崩れている。島の人々が遊びに来て捨てたのか、コンビニ弁当のトレイや、お菓子の袋も落ちている。ここが放置されて、どのぐらい経っているのかは知らないが、五年を超えることはない。それでも、ここまでひどい状態になるのか。俺は、時の流れの速さを感じた。

「なあ、DB。ここのオーナーや主要な社員は、殺人鬼に殺されたって、朱鷺村先輩は言っていたよな」
「ああ。戦国時代の兵士が云々と言っていたけど、俺は、五年前まで生きていた人間の方が怖いぜ」
「ここで殺されたと思うか?」
「さあ、どうだろうな。殺人鬼の奴ら、車を乗り回して、島の方々に散っていったそうだからな。ここに来たのかもしれないな」

 五年前のあの日、車に轢かれそうになったアキラを助けたあと、俺は数日昏倒していた。だから、その前後の経緯は、あまり把握していない。いや、後日、話は聞いているが、当事者として実感を持てないでいると言った方が、正しいだろう。

「なあ、DB。あの事件の七人は、なぜこの島に上陸して、人々を惨殺したんだろうな」
「ただ殺しただけじゃないぜ。奴らは、最後に全員自殺している。その理由も分かっていない」

 DBは、苦虫を噛み潰したような顔をする。

「この部活は、あの事件と関係があるって、朱鷺村先輩は言っていたよな」
「ああ。まだ話せないが、いずれ話すみたいなことを口にしていた」
「つまり、それって、あの事件は、霊的な何かと関係があるということなのか?」

 DBは返事をしない。頭の中で検討しているのだろう。俺も口を閉じて考える。何も関係がないのなら、朱鷺村先輩は、五年前の事件との関連を、ほのめかしたりはしないはずだ。

 一階を調べ終わった。次は二階だ。俺は階段の前に立ち、周囲に注意を払いながら上り始める。DBとアキラは、俺の背中の服を、しっかりと握っている。
 最初からびびっていたDBはともかくとして、アキラは、建物に入る時には意気込んでいた。その癖に、今は人一倍怖がっている。こいつも、女の子なんだなと、俺は思う。

 コンクリートの階段を上りきり、二階に着いた。この階は、事務用途だったのだろう。似たような作りの扉が、いくつか並んでいる。俺は、恐る恐る歩き出す。そして、背後の気配が、先ほどと違うことに気付く。俺の背中をつまむ手が、一つになっていた。

「どうした?」

 俺は、声を出しながら振り向く。DBと顔が合った。

「何だ?」
「アキラは?」

 DBは、眉を寄せ、後ろを見た。階段のところにアキラが突っ立っていた。アキラは青い顔をして、口をぱくぱくとしている。いったいどうしたのだ。何かを見て、怯えているようだ。
 俺はアキラの視線の先を見る。ガラスの抜け落ちた窓を見ている。そこに、一人の貧相な兵士がいた。手に弓を持って、引き絞っている。その矢が、俺とDBに向けられている。

 ブンッ!

 弓が矢を弾く音とともに、風切り音が聞こえる。俺の頬の横を、矢が通過した。

「シキ、DB、危ない!」

 アキラが、驚いたような声を出した。

「気付いたなら、敵が矢を放つ前に言え!」

 DBが苦情を言って、どこか隠れる場所がないかと、扉を開ける。部屋の中には、折れた刀を持った、血まみれの兵士がいた。DBは慌てて扉を閉めて、他の部屋に入ろうとする。そこには、槍を持った、片腕のない雑兵がいる。
 DBは下がり、左右に視線を走らせる。敵は、壁をすり抜けてくる。いつの間にか、俺とDBは、戦国時代の死霊に囲まれていた。アキラは、階段の前で目を白黒させている。

「キャーッ!」

 アキラは、振り絞るようにして声を出した。最初にその悲鳴を上げろよ! そうすれば、敵の存在に気付けたのに! 俺は、文句の一つも言いたくなるのを我慢して、身構える。

「やばいなDB」
「いきなりピンチだな」

 俺とDBは背中合わせになる。そして、どうすればこの危機を切り抜けられるか、頭をフル回転させ始めた。

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