雲居 残月 の 小説道場

主に「小説家になろう」で書いた話を中心に、小説投稿をおこなっていきます。

第60話 挿話18「鈴村真くんと僕」-『部活の先輩の、三つ編み眼鏡の美少女さんが、ネットスラングに興味を持ちすぎてツライ』

f:id:kumoi_zangetu:20140310235211p:plain

 花園中学は、頭がお花畑の人間が通う中学ではない。花園という地域に存在している、まともな中学校だ。その花園中学の文芸部には、少しだけアブノーマルな人間たちが集まっている。
 かくいう僕も、そんな変態路線の人間の一人だ。名前は榊祐介。学年は二年生で、厨二病まっさかりのお年頃。そんな僕が、部室でやっていることといえば、備品のパソコンでネットを巡回して、何の役にも立たないネットスラングを調べて喜ぶことだ。

 そういった、いかがわしい人間ばかりの文芸部にも、おしとやかな人が一人だけいます。スラム街に紛れ込んだマザー・テレサ。それが文芸部の先輩の三年生、僕の意中の人である、雪村楓さんです。楓先輩は、三つ編み眼鏡の、見た感じのままの文学少女。家にはテレビもなく、活字だけを食べて育ってきたという、純粋培養の美少女さんです。

 そんな僕や、楓先輩の所属している文芸部に、華やかな事態が発生した。満子部長の母親が買った別荘に、夏休みを利用して、合宿に行くことになったのである。えっ、ドキドキの夏休みイベントって、奴ですか?
 そして合宿二日目、いよいよビーチに繰り出して、海水浴を楽しむことになった。

「夏だ! 海だ! 水着だ!」

 僕は砂浜で、海に向かって大声で叫ぶ。僕の精神は、大自然で大いに解放されている。僕の心は、入道雲のように、空高くまで広がっている。そうなるのも仕方がない。文芸部の美少女たちが、僕のために水着姿になってくれているからだ。

「おい、サカキ。てめえ、視線がエロいぞ」

 僕は脳天に拳骨をもらって、ぎゃふんと声を漏らす。

「何をするんですか、鷹子さん! 僕の脳細胞が死滅したら、それは鷹子さんのせいですよ!」
「大丈夫だ。初めから死んでいる」

 女番長でモヒカン族の鷹子さんは、涼しい顔で言い放つ。やめて欲しいなあ、まったく。でも、僕がエロい視線でみんなの姿を見ていたのは本当だ。

 三年生で、僕を殴った鷹子さんは、黒いビキニを着ている。鷹子さんは、暴力的で暴れん坊だけど、長身で滅茶苦茶スタイルがよい。顔もシャープな美形で、モデルさんのようだ。そんな鷹子さんが、大人な雰囲気の水着を身にまとうと、まるでファッションショーの会場から抜け出てきたように見える。
 その隣には、三年生でゴージャスな容姿の満子部長がいる。満子部長は、ゴールドのラメのビキニだ。どう見ても成金臭い水着なのだけど、満子部長が着ると似合っているのがすごい。人間、持って生まれた資質というものが、あるのだなと思う。

 視線を移すと、僕と同じ学年で、幼馴染みの睦月が目に入る。睦月は、白いビキニである。水泳部で日焼けした肌と、まだ焼けていない白い肌、その対比の中で、純白のビキニは肌の色に溶け込み、まるで全裸のように見える。これは、攻めているな。僕は、睦月の大胆さに舌を巻く。睦月はいつも、僕の好みを的確に突いてくる。
 睦月の横には、一年生で、幼女にしか見えない瑠璃子ちゃんが立っている。瑠璃子ちゃんは、大幅に背伸びをしている。桃色のビキニで、胸とお尻を覆っている。まだ、ぷにっとした感じの瑠璃子ちゃんがこういう姿をすると、世紀末的な背徳感が漂い、背筋がぞくぞくとする。

 そして、三年生で、僕の愛しの楓先輩。先輩は、可愛らしい花柄の、ワンピースタイプの水着で体を覆っていた。

「あれ、楓先輩は、ビキニではないんですか?」
「ビキニなんて、恥ずかしいものは着ません。みんな、肌を露出し過ぎです!」

 楓先輩は、恥ずかしそうに胸元に手を当て、顔を真っ赤にして言う。なぜ、胸を隠す位置に手を置いているのだろう。僕はそのことを疑問に思い、すぐに納得した。
 可憐な容姿の先輩は、胸の膨らみがあまりない。言うならば、開花前のつぼみの状態だ。そんな貧乳の胸元を、他の人たちと比べられたくないのだろう。

 満子部長はゴージャスな胸だ。鷹子さんも、スタイルがよい。瑠璃子ちゃんはぺったんこだけど、睦月は最近ぐんぐんと成長している。いずれ巨乳になる可能性を秘めている。
 そういった中、楓先輩が胸を気にするのは仕方がない。僕は、楓先輩を元気付けるために、陽気に声をかけた。

「先輩。大丈夫ですよ。女性の魅力は胸だけじゃないです。先輩の三つ編みと眼鏡も、強力な武器ですから!」
「もう、サカキくん! 三つ編みは単なる髪型だし、眼鏡にいたっては視力を補うただの道具だし、私自身と関係ないじゃない」

 あれ? 何だかお気に召さなかったらしい。

「じゃあ、うなじとかですかね。女性の後れ毛には、耽美なエロスを感じます」
「サカキくんって、基本的にエッチだよね」

 楓先輩は、ぷんすかぷんといった表情で、胸を必死に隠しながら、女性陣の端にちょこんと立った。
 僕は、水着姿で並んだビーチの花たちの人数を数える。一、二、三、四、五。あれ、一人足りない? そういえば鈴村くんはどこだろうと思ったら、僕の少し後ろに立っていた。

 鈴村くんは、ティーシャツにショートパンツ姿だ。あれ、水着は? と思ったけど、泳がない気なのかもしれない。それにしても、学生服を着ていないと、鈴村くんは女の子にしか見えない。小柄な体、華奢な骨格、中性的な顔立ちに、少し気弱そうな表情。そして、男心を捕らえて離さない数々の仕草。さすが、毎日姿見の前で、可愛いポーズの研究をしているだけある。どこをどう取っても美少女だ。
 そんな鈴村くんは、僕から数歩下がったところで、はかなげな笑顔を見せている。

「ねえ、鈴村くんは海に入らないの?」
「うん、今はまだ」
「ふーん」

 よく分からないけど、入らない理由があるのだろう。

「おい、サカキ。さっさと海に行くぞ!」

 鷹子さんは叫んだあと、野獣のように走って、波を蹂躙し始めた。女性陣は、その勢いに誘われるようにして、次々と海に飛び込んで、笑顔ではしゃぎ始めた。
 僕の身近な女性たちが、半裸でニンフのように水と戯れている。ああ、この光景を、僕は一生の宝物にしよう。僕は、感動とともに「夏よ、ありがとう!」と、叫びたい気持ちになる。

「ねえ、サカキくん」
「何? 鈴村くん」
「お願いがあるんだ」
「いいけど」
「海の家の裏手に、一緒に来て欲しいんだ」

 どうしたのだろう。何かあるのかな? 僕は、誘われるままに鈴村くんに付いて、建物の裏手に回った。

 そこは日陰で、人目の届かない場所だった。いったい何の用だろうと思いながら、僕は鈴村くんの様子を窺った。

「実は、水着を着てきたんだ」

 ああ、服の下は水着なんだ。僕も、水泳の授業がある時には、たまにそういったことをする。鈴村くんも、同じことをしているんだなと思った。

「今から服を脱ぐの?」
「似合っているか、サカキくんに見てもらいたいんだ」
「いいけど」

 なぜ僕にだけ見せるのだろう。どうせなら、文芸部のみんなに見てもらった方がよいだろうに。僕は謎を抱えたまま、鈴村くんが服を脱ぐのを待った。

「あっ!」

 僕は、思わず声を上げる。鈴村くんは、男性用の水着ではなく、女性用の水着を身に着けていた。紺色のワンピース型の水着だ。胸がわずかに盛り上がっているのは、パッドを入れているからだろう。
 僕は、鈴村くんの股間を見る。平らだった。パッドで隠しているのか、テーピングをしているのかは分からない。僕は知識の求道者だから、女装サイトを回って、股間の処理の仕方を研究したこともある。鈴村くんの割れ目は、かなりのクオリティだ。僕は、そのことに驚きながら、もっとよく観察しようとして地面に膝を突く。そして、鈴村くんの股間に、顔を近付けた。

「サカキくん、どう?」

 鈴村くんは、女の子である真琴の口調で、僕に尋ねる。

「素晴らしい状態だと思うよ。ネットで見たものよりも、遥かにできがいいね」
「女の子に見えるかな?」

 僕は、真琴の股間を凝視しながら答える。

「見えるとも。それも、普通の女の子よりも、よほど質のよい女の子だと言える。真琴は、体毛がほとんどない。その美しい肌は、女性のきめの細かい肌と比べても遜色ない。骨格も、小柄で華奢だ。肩幅も狭い。胸の膨らみも、可憐さを感じさせて、守ってあげたいという庇護欲を刺激する。

 そして、股間だ。巧妙に整えられているラインは、男性器の存在をまったく感じさせない。わずかに盛り上がったその様子は、土手高を連想させて、見る者にほのかな劣情を覚えさせる。
 完璧だよ。美少女鑑定士の僕の眼鏡に適うよ。合格だ。このまま砂浜に出れば、万人が君を、ビーチの妖精として羨望の眼差しで見るだろう」

 興奮気味に股間に語りかける僕の声を聞き、鈴村くんは、もじもじと動いて恥じらった。僕は、顔を上げて、真琴に快心の笑みを見せる。真琴は、僕を見下ろしながら、照れくさそうに微笑んだ。

「さあ、砂浜へ行こう! 衆人の下に、その姿をさらそう!」

 僕は立ち上がり、真琴の手を引いてビーチに向かおうとする。

「ま、待って!」

 真琴は慌てて声を出す。しかし、僕の耳には入らない。真琴の倒錯的な水着姿に、脳の回路がショートしてしまったからである。

「あっ!」
「うわあぁっ!」

 僕と真琴は足をからませて、その場で転んでしまう。僕と真琴は建物の陰で、互いの顔を間近に並べて地面に横になった。
 真琴の可愛らしい顔が、目の前にある。その美しさに、僕は息を呑む。

「サカキくん……」

 鈴村くんは、頬を染めたあと、唇をわずかにほころばせて目をつむった。僕は、艶やかな唇に目を奪われる。あらわになった白い手足、わずかに膨らんだ胸、そして、微かに盛り上がった平らな股間。その姿が、僕を待つようにして地面に横たわっている。
 僕は、そっと手を上げて、指先を真琴の髪に入れる。真琴の体が一瞬硬くなり、そして弛緩した。指先にはぬくもりがあった。真琴の体温が感じられた。僕は指を動かして、真琴の後頭部に回り込ませようとする。

「おほんっ。そういうのは、他の場所でやってくれねえか」

 気が付くと、裏口から出てきた海の家の主人が、恥ずかしそうな顔をして見ていた。僕と鈴村くんは、大急ぎで起き上がった。僕と鈴村くんの顔は、これ以上ないというほど、真っ赤に染まっていた。

「い、行こうか、鈴村くん」
「う、うん」

 僕と鈴村くんは、裏口の扉から離れる。鈴村くんは服を身に着けた。僕たちは、海の家の裏から表に回り、砂浜に出た。

「おい、こら、サカキ! どこに行っていたんだよ!」

 波と格闘しながら、鷹子さんが笑顔で声をかけてきた。

「サカキく~ん、鈴村く~ん、早く泳ごう!」

 楓先輩が、楽しそうに水と戯れながら僕たちを呼ぶ。満子部長も、睦月も、瑠璃子ちゃんも、笑顔で手招きしてきた。

「今行きますよ~!」

 僕はサンダルを脱ぎ捨て、海へとダイブした。僕は、文芸部の女の子たちにもみくちゃにされて、水の底に沈む。そして、ぷはあと、声を上げながら水面から顔を出した。
 砂浜では、鈴村くんがちょこんと座って、楽しげにこちらを見ている。

「鈴村くんも、着替えて来なよ!」

 男子の水着にと、僕は心の中で付け加える。

「うん」

 鈴村くんは笑顔で答えたあと、脱衣所へと可愛らしく駆けていった。