雲居 残月 の 小説道場

主に「小説家になろう」で書いた話を中心に、小説投稿をおこなっていきます。

第11話 挿話1「文芸部員を紹介します」-『部活の先輩の、三つ編み眼鏡の美少女さんが、ネットスラングに興味を持ちすぎてツライ』

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 花園中学は、頭がお花畑の人間が通う中学ではない。花園という地域に存在している、まともな中学校だ。その花園中学の文芸部には、学校でも名が通った、変人たちが集結している。
 そんな掃き溜めみたいな部活に所属している僕の名は、榊祐介という。二年生という真ん中の学年で、文芸部では中堅どころ。厨二病まっさかりのお年頃だ。そんな僕が、部室でやっていることといえば、備品のパソコンでネットを巡回して、何の役にも立たないネットスラングを調べて喜ぶことである。

 えっ、そんな馬鹿なことをしないで、普通の文芸活動をしろだって? いえいえ、文芸的に、とっても役立っていますよ。僕の言語能力の八割は、ネットで仕入れた、コピペテンプレートでできています。残りの二割は、マンガとアニメとエロゲの台詞かな。

 そういった、僕を含めてダメ人間ばかりの文芸部にも、まともな人はいるんです。百鬼夜行に紛れ込んだ、一人の可憐な少女。文芸部の先輩の三年生、雪村楓さんだ。眼鏡で三つ編み。見た感じのままの文学少女。家にはテレビもなく、活字だけを食べて育ってきたという純粋培養の美少女さんだ。そして、僕の意中の人でもある。
 今日は、この楓先輩を中心に、文芸部の奇妙な面々を紹介していこう。三年生三人、二年生三人、一年生一人。この他己紹介は、文芸部恒例の行事で、全員が一度は書くことになっているんだ。


●花園中学 文芸部 部員

○三年生
・雪村楓(楓先輩)……三つ編み眼鏡の文学少女。僕の意中の人。
・吉崎鷹子(鷹子さん)……女番長。モヒカン族。なぜか、オタク話に反応する。
・城ヶ崎満子(満子部長)……サラブレッド・エロオタク。ザ・タブー。S気質。

○二年生
・榊祐介……僕。ネットスラング中毒者。
・鈴村真(鈴村くん/真琴)……男の娘。僕と仲がよい。
・保科睦月(睦月)……幼馴染み。水泳部。日焼け。水着。内気で大胆。

○一年生
・氷室瑠璃子(瑠璃子ちゃん)……幼女強い。眼力。僕に厳しい。


 それじゃあ、他己紹介を始めるよ。
 まずは一人目、三年生で一番まともな人。というか、部活で唯一の常識人「雪村楓」さん。だいたいいつも、窓辺で本を読んでいます。一日一冊か二冊のペースで読み進め、律儀に感想を書いています。今はちょうど、文庫に目を落として、残り少ないページの文字を追っています。姿勢を正して、首を曲げ、眼鏡の奥の目を輝かせています。口元がわずかにほころんでいるのは、きっとハッピーエンドが近いからでしょう。周りの音は耳に入っていない。そういったご様子です。僕は、そんな真面目で真剣な、楓先輩が大好きです。

 二人目は、三年生でちょっと強面な人。女番長と評判の高い、「吉崎鷹子」さんです。
 背が高く、腕っぷしが強く、きっぷがいいです。顔はモデルのようにシャープで、高身長なことと相まって、黙っていれば相当な美人さんです。でも、しゃべると怖いです、鷹子さんは。何というか、迫力があるんです。相当なものですよ。道を歩いているヤクザを、追い払ったという噂もあるぐらいですから。
 そんな鷹子さんは、女の子に人気があります。よく、ラブレターとか、チョコとか、クッキーとかをもらって、部室にやって来ます。そして、僕の方を見て、「餌をやるか」と言って、食べ物を与えてきます。僕の体重が、平均よりも、少しでも重いとすれば、その七割ぐらいは、鷹子さんのせいだと思います。

「おい、サカキ」

 あっ、鷹子さんがやって来た。僕は、思わず身構えます。「果たし合いの立会人になれ」とか言われると困ります。鷹子さんは、むすっとした顔で僕の横に座ります。そして、「昨日のテレビは、当然録画しているよな」と聞いてきます。それはまあ、ハードディスクに保存していますけどね。リアルタイムで見ているとはいえ、あとで見直したくなることもありますし。

「いいか、サカキ。その録画した奴を、メディアに焼いてもってこい」
「どの番組ですか?」
「それを、私の口から言わせるか? つべこべ言わずに全部だよ!」

 うわあ、モヒカン族だ。何だか知らないけど、先輩は昨日のどれかの番組を見逃したらしい。ドキュメンタリーだろうか、バラエティだろうか。でも、僕が録画しているのは、アニメだけなんだけどな。お気に召せばいいのだけど。
 鷹子先輩は、そんな感じで、「メディアを持ってこい」とか、「読み終わった雑誌を持ってこい」とか、「プレイし終わったゲームを持ってこい」とか、カツアゲまがいのことをよくします。そして、部室で僕に「気を付け」をさせて、そういったコンテンツの感想を述べさせます。
 いったい、どんないじめなんだろう。まあ、熱心に聞いて、感心しているようなので、僕もがんばって述べさせてもらいますけど。
 そういった感じで、鷹子さんは、なぜか僕に辛く当たる人なんです。謎で謎で仕方がないです。

 三年生の最後は、「城ヶ崎満子」部長です。この人は、そのあだ名がすべてを物語っています。ザ・タブー。そういった名前で、先生にも恐れられています。父親がエロマンガ家で、母親がレディースコミック作家という、サラブレッドな家系のお方です。僕なんかでは太刀打ちできないような、英才教育を受けています。そして、この人は、どうも真正のSの人っぽいです。僕を、ちくちくといじっては、嬉しそうにしています。受難です。困ります。はあっ。そう思っていたら、満子部長が、僕のところにやって来ました。

「サカキ」
「何ですか満子部長」
「文芸部の活動資金を稼ごうと思ってな。一計を案じたのだよ」
「部費が足りないのですか?」
「ああ、私が使い込んだ」
「ちょっと先輩。それ、自分で補てんしてくださいよ!」
「いろいろと、資料の本を買っているだろう。禁書とか。サカキも読んでいるだろうが」
「うっ」

 満子部長が、禁書と呼んでいるのは、いわゆる大人の表現のサンプルが記載された書籍のことです。K能小説とかですね。先輩は、エロエリートとして、それらの表現を自分の作品に活かすために、日夜研究しているのです。それは、ある意味、学術的な研究と言えるレベルだそうです。論文だって、書いています。大学教授からは、「院の卒論レベルはすでに到達している」とお墨付きをもらっている実力派です。
 その学術的資料を、僕はお借りして、いろいろとモニョったりしているわけです。

「仕方がないですね。僕は何をすればいいんですか?」
「エロSSを書け」
「ちょ、ちょっと、声が大きいですよ!」

 僕は、満子部長を制して、楓先輩を見る。よかった気付かれていないようだ。満子部長はこうやって、聞こえるか聞こえないかぎりぎりのところで、僕をいたぶって楽しんだりする。

「分かりました。これも、文芸部の活動ですからね」
「任せたぞ。締め切りは三日後」
「早いですね」
「それを、親のアカウントを使って、キンドルで売る。親の許可は得てある」

 さすがです。僕は、いきなり、与えられた締め切りにくらくらしながら、満子部長の許を離れることにしました。

「大丈夫?」

 顔を上げると、同級生の「鈴村真」くんが、僕の許にやって来ました。華奢な体で、女の子のような顔立ち。一つ一つのポーズや仕草も、可憐な乙女のような鈴村くん。僕は、彼が自宅で女装を楽しんでいることを知っている。
 ……もう、先輩じゃないから、敬語はいいよね! 同級生からは、普通に書くよ! というわけで、リミッター解除だ~~!

「ああ、鈴村くん、大丈夫だよ」
「うん、よかった」

 鈴村くんは、嬉しそうに目を細めて、軽く握った手を顔の近くに持ってきた。か、可愛いじゃないか。僕はそんなことを思う。いやいや、危ない道に引きずり込まれては駄目だ。鈴村くんは、男の子だ。そりゃあ、男の娘には禁断の味があるという。でも、僕には正妻の楓先輩がいる。鈴村くんには、涙を呑んでもらうしかないだろう。

「鈴村くん」
「何、サカキくん」

 嬉しそうに、一歩近付いてきた。鈴村くんは、体を少し傾けて、僕のことを見上げる。男の子にしては長い髪が、眉の上でさらさらと流れる。ああ、禁断の恋に落ちそうだ。僕は、理性を失う前に、そそくさと鈴村くんの前を離れた。

「ふうっ」

 僕は自分の席に着く。パソコンのモニターの前が、僕の特等席だ。モニターは、その背面を入り口に向けている。そのため、誰かが突然部室に入って来ても、何を閲覧しているのか分からない。ただ、その席に座ると、あるものが目に入るんだよね。入り口近くにいるのは、水着姿で部室に生息している幼馴染みの二年生、「保科睦月」だ。
 睦月は、子供の頃から、野山で一緒に遊んだ友人だ。しかし、中学生になった頃を境に、僕との会話がほとんどなくなった。その代わりに、部室で競泳水着やスクール水姿で過ごすという、奇行を続けている。それもなぜか、僕の席の真正面に座って、こちらをじっと見ている。まあ、目の保養だからいいんだけどね。

 僕は、ちらりと睦月の姿を見る。睦月は僕のことを見つめている。何か言いたいことでもあるのだろうか。他の人とは普通に会話するけど、僕にはあまり話しかけてこない。何だか距離を感じるなあ。もっと近付いてきてくれれば、スタイルのよい体を、至近距離で見ることができるのだけど。でも、そんなことを言うと、僕の大好きな楓先輩に失礼だ。だから僕は、ちらちらと見るにとどめ、あまり睦月を凝視しないようにしているのだ。

「サカキ先輩。何、アホづらをさらしているんですか」

 どこからともなく突っ込みが入ってきた。振り向くと、一年生の「氷室瑠璃子」ちゃんが、湯呑みでお茶を飲んでいた。小学校低学年にしか見えない瑠璃子ちゃんは、射抜くような眼力と、毒舌で僕を責め立てる。

「何だい、瑠璃子ちゃん。僕は、アホづらなんか、さらしていないよ」

 僕は、にこにこ顔で告げる。うん、年下の子には優しくしないとね。そういったところを楓先輩に見せれば、「ああ、サカキくんは子供好きなのね」と思ってくれて、結婚のことを考えるようになるかもしれないから。
 そんな僕の邪な心が読めるのか、瑠璃子ちゃんは、呆れたような顔で僕を見ている。

「部活の備品で、何の役にも立たないようなサイトを巡回するのは、やめてください。そんなことをするぐらいなら、勉強でもしてください」
「いいだろう。僕が自分の時間を、何に使ったって」
「そんなことでは、よい学校に入れません。そして、よい就職先も獲得できません」
「そんな、将来の計画よりも、僕は現在の快楽を、思うままに享受したいんだ」
「それでは、私が困ります」
「何で?」

 瑠璃子ちゃんは、顔を赤らめて、ぷいっと逸らす。いったい、なぜなんだろう。僕は、その理由が分からない。それよりも今日は、楓先輩の質問攻撃がないから部室が静かだ。このまま、ネットスラングについての質問がなければ、僕は平穏な一日を過ごすことができる。まあ、それはそれで、楓先輩としゃべるチャンスが減って、寂しいんだけどね。
 そうこうしていると、先輩が席を立った。どうしたのだろう。お花摘みにでも行くのかな。僕は、先輩がその行為をしているところを想像する。屈んでくつろぐ楓先輩も、きっと素敵なのだろう。

「サカキく~ん。ネット詳しいわよね。教えて欲しいことがあるの~」

 ああ、また始まった。先輩のきわどい質問が。
 僕は、すくっと立ち上がる。僕は、ネット世界のマエストロ。今日も愛する先輩のために、知的好奇心を、満たして差し上げるのです。そして、先輩の尊敬と信頼を勝ち取っていくのです。
 ……まあ、だいたい、失敗しているんだけどね。